リング6音とは?
リング6音は、難聴児の療育に携わる人やご両親にはぜひ知っていただきたい確認方法です。
「人工内耳や補聴器が適切に機能しているか」「適切に調整されているか」を心配されている方も多くいらっしゃることでしょう。そのような心配があるときに、聴覚の状態を確認する方法として有効です。
お子さんの聴力検査の結果の表は見たことありますか?それを見ながらぜひ一緒に見てみましょう!
ここだけは必ず確認すべき!聴力検査結果【オージオグラム】の徹底解説!
最終的にm, u, a, i, sh, sの6音を聞き分けられるのであれば、スピーチバナナ※1に出てくることばの音を聞き分ける力を子どもが持っているということになります。
これができるということは、聴覚だけでことばを理解するために必要な前提条件をクリアーしたといえるでしょう。
>英語バージョンですが見たい方はこちらにどうぞ(youtube)
スピーチバナナ(※1)とは?
「スピーチバナナ」を検索すると、英語のウィキペディアでは、「世界の言語音素をオージオグラム上に表わしたもの」とあります。以下の図をみていただくとわかりますが、低い音から高い音まで黄色くなっている範囲(バナナの部分)で、世界で話されていることばの音をあらわすことができるんです。
大まかにいうと、母音(あいうえお)は低音域でエネルギーが大きく、子音よりも強く発音される傾向に対し、子音の中でもとくに無声子音(喉の震えが必要でない子音)は高音域に多く母音と比較して小さめの音で発音されます。
例えば、高齢者の場合、高音域から聞こえなくなってくることが多いのですが、「何か言っているようだ。けど、はっきりとはわからない」という感じになります。実は、高音域の方が、ことばの明瞭度(めりはり)や理解度に関係し、ことばの情報量が多い傾向があります。
カウント・ザ・ドットも知っておこう!
それは、「カウント・ザ・ドット」というスピーチバナナの中に表される100の点(赤いドット)の傾向からもわかります。
1000Hz以上の高音域の方が点の数が多く、密度が濃いですよね。
低音域より重みづけされているのがわかりますか?
といっても、もちろん低音域が大事ではないというわけではありません。母音だけでなく、鼻音、ことばのイントネーション、ピッチを聞くために、低音域も重要です。結論をいうと、聴覚だけでことばを理解するには、スピーチバナナの領域がすべて入っている状態が理想的なんです。
6つの代表音だから6音というのでしょうが、なぜリングというの?
よく誤解されることですが、「リング」はおもちゃの輪っかのことではありません(笑)。
難聴児教育に大きな影響を与えたカナダ人のダニエル・リング先生が考案した確認方法で、リング先生の名前をとってLing6音といわれています。聴覚のみでことばを理解できるように育てたい場合は、毎日このLing6音を使って聴覚の状態を確認することが推奨されています。
実際にリング6音をつかって、どうやって確認すればいいの?
一般的に、音が適切に入ってくるようになってから子どもが生後(難聴児の場合は補聴後)6ヵ月以内にできることとして、音の検知(音があるかないか、音への気づき)があります。
リング6音を聞き分ける前に、聞こえなければ意味がないので(笑)初期の頃はリング6音が聞こえるかどうか、小さい音でも聞こえるのかなどを確認します。
子どもが前を向いているときに、後ろでリング6音を聞かせ、「なんだろう?」と振り向くようであれば、聞こえているという判断になります。振り向いてくれたときは、「聞こえたね!ママだよ」など、何かしてあげてください!反応しても、何もしないままが続くと、音を無視して振り向いてくれなくなってしまいます。
振り向きの目安、気づいたなと思う目安
前を向いていたのに、音を鳴らしたあとすぐ振り向く、探すような行動をとる、などでわかります。目の動きなども参考になります。もちろん、前を向いているといっても、目の前に夢中になっているものがあれば、振り向かないこともあるので、音を鳴らすタイミングに気をつけます。
聞こえているはずなのに、振り向いてくれないのはどうして?
補聴後すぐは、大きな音でチャイム音が鳴っても犬が吠えても反応がないことがあります。聞こえの経験が乏しく、音への意味づけができていないような場合は、とくにそうです。
聞こえているはずの音の大きさなのに、振り向いてくれないときは、「音に気づくように」助けてあげます。この場合は、「自発的に音に気づいて振り向いてくれるようにする」のが最初の目標になります。
携帯が鳴ったら、「あ、ママ 聞こえるよ!」といって自分の耳を指さします。携帯が鳴っている状態で「携帯が鳴っているね」と子どもの耳に近づけ携帯を指さし、「ママ、携帯をとるね」と声かけしたあと、携帯をママが取るところを見せます。そこまでするの?と思うかもしれませんが、最初の時期はそのぐらいのパフォーマンスをしていただいた方がいいです。
環境音に対して、毎日同じような反応を大人が示していれば、「音には何か意味がある」ということに気づき、子どもの中で音と物との関連付けができてきます。自発的に音へ気づくことができるようになった後も、犬が吠えたときに、子どもが「はっ」と顔をあげて「なんだろう?」という顔をしていたら、すぐに「ワンワンだね」といいながら、犬を指さしてあげます。音と物への関連付けを助けてあげることがことばを獲得するために必要な始めの一歩になります。そのうち、「ワンワン」と聞いただけで、ワンワンの方を見るようになるでしょう。
具体的に、リング6音で何がわかるの?
例えば、sh, sなどの高い音のリング6音の時だけ振り向かないということが観察されたら、ことばの聞き取りに必要な高い音はきちんと入っていないかもしれません。
人工内耳を手術されたお子さんの場合、補聴器の時よりもsh やsへの反応が良くなることが多いです。もう少し年齢のいったお子さんの場合(3歳ぐらい)は、音が聞こえたらボールを容器に入れるなどの遊びながらの確認(遊戯法)で確認することもできます。
また、音がよく入るようになってから1年以内で音声模倣(以下、音マネ)ができるお子さんもおり、その場合は、リング6音を音マネしてもらうことで確認できます。音マネができるということは、聴覚発達の、音の検知→弁別→認識→理解※2の段階のうち、音の認識段階に入っているということを意味します。
※2 音の検知→弁別→認識→理解について
(ちょっと難しいですが興味のある方はどうぞ!)
聴覚発達の指標として、音の検知→弁別→認識→理解の4つの段階が知られています。
それぞれ、次の段階の前提条件という感じになります。
例えば、音の検知ができなければ、弁別はできない、といった感じです。音の検知は、聴力検査と同じようなことで音があるかないかに気付くことです。弁別は、心理学的な用語です。
これは、厳密にいうと2つの刺激音を聞き分ける能力です。「長い音か短い音か」、「高い音か低い音か」の二つの音の違いがわかるということです。
弁別の次の段階は、認識で、リング6音の聞き分けや「音声の模倣ができる」というのが指標にされています。最終段階が、理解となっていて、これは「今日は何食べた?」「ごはん」というように、ことばを理解し、それをもとに何かやりとりができる段階です。
他に、検知に必要な音の大きさよりももっと大きな音でないと認識や理解につながらないということも覚えておくといいかと思います。例えば、お子さんの平均聴力レベルが40dBHLのお子さんに40dBHLで話しても、何か音はするけど、何をいっているかわからないということになります。この場合、15dB上の55dBHLぐらいでないとことばを理解しにくいという具合です。
リング6音のいいところは?
リング6音のすばらしいところは、親が家でも手軽にできるという点です。
とても強力な確認ツールになるかと思います。例えば、「今まで片方ずつ問題なく6音ができていたのに、昨日から右側の方だけ6音を模倣できなくなっている」ということであれば、右側の補聴器か聴力に何か起きているかもしれないということになります。
注意点は?
リング6音は、「聴覚のみ」で聞き分けられるかどうかを確認する方法なので、視覚情報はNGです。できたら子どもの後方に親がいて、子どもに口の動きが見えない状態で行います。
また、毎日やることなので、音マネをしてもらう場合は、どの音が聞こえてくるかこどもに予想できないように順番をかえて行ってください。
話しかける位置はどのあたり?
話しかける位置は、最初は普通の声の大きさで、子どもの耳から近い距離(30~60cm)でいいと思います。慣れてきたら、小さい音が入っているかの確認のために、少しずつ距離をとった位置からしてもいいでしょう。(1mぐらい)
ぜひぜひ家庭でやってみてください!
矢崎 牧 先生