人工内耳について、ご自身も人工内耳を装用されている安岡公美子医師にいろいろと教えてもらいました!
いつも人工内耳をするかしないか…いろいろ悩まれている親御さんからデフサポに頂く質問をそのまま安岡先生にぶつけてみました!
本当こちらの記事は必見です!
今回いろんな疑問に答えてくれる安岡久美子医師!
安岡先生
・2歳頃からの高度〜重度難聴
・読唇と口話でのインテ(普通学級)
・大学2年(20歳)で右の人工内耳
・33歳で左の人工内耳装用
・現在滋賀県で耳鼻咽喉科の医師
生まれつき聞こえなかったのか?
生まれたときは聞こえていて,途中までは歌もおしゃべりも大好きな子どもだったようです。ところが,2歳ごろから声をかけても反応しなくなり,当時は医療機関に受診しても診断ができず,4歳で幼稚園に入園する前の健診で聴覚障害を疑われて大学病院で精密検査を行ったところ,高度〜重度感音難聴と診断されました。先天性難聴ではありませんが,ことばを完全に獲得する前に難聴になった,「言語獲得前難聴」という状態です。
補聴器をつけてインテグレーションをしていた
診断されてから補聴器を両耳につけて,読唇と口話で育ち,幼稚園から高校まで普通学級で過ごしました。
中学3年生のころから医学部医学科で聞こえについての研究をしたいと思うようになり,高校卒業後はそのまま現役で滋賀医科大学医学部医学科に入学しました。当時はいわゆる「お医者さん」になれるとは思っていませんでした。
人工内耳を入れたきっかけは?
入学後,大学2年生のときに授業についていけずに留年したことをきっかけに,人工内耳手術を勧めていただき,20歳で右耳の手術を受けています。
その後,滋賀医科大学を卒業して研修医として2年間働いたのち,耳鼻咽喉科の医師になりました。33歳で左耳にも人工内耳の手術を受けて,現在は両耳とも人工内耳を装用しながら,滋賀県にある小さな病院で,耳鼻咽喉科医がひとりだけという環境で日々奮闘しています。
安岡先生
Q1.人工内耳装用までの流れは?
Q2. 人工内耳とはどんなもの?
人工内耳は,手術で埋め込んだ電極で,直接内耳の蝸牛を刺激することで音を届ける機械です。
周囲の音を聞くためのマイクで音を集めて,そこから耳のうしろに埋め込んだインプラントから音が蝸牛に伝わり,聴神経を刺激して脳へ音を伝えています。日本では1985年に最初の手術が東京医科大学で行われて以来,現在では年間1,000件以上の手術が行われています。
Q3. 人工内耳の手術はどんなふうに行われる?
人工内耳の手術は,全身麻酔で行う手術になります。
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施設によってさまざまなやり方があります。
耳の付け根のうしろを約4〜5cm切るのは共通しています。
その後のパターンは施設によって異なります。例えば・・
パターンA:更に上のほうを追加で約2〜5cmほど切る
パターンB:耳の付け根の上からうしろに更に4〜5cmほど切る
・目立たない
・傷のトラブルが少ない
・人工内耳のインプラントを埋め込む骨が見えづらい
・埋め込むところが見えやすい
・出血の処置がしやすい
いずれにしても現在はあまり大きな傷になることはないように工夫されています。
さらに,筋肉とその下の骨膜を切り,筋肉と骨膜は骨からはがしていきます。これは,後ろがポケットのようになっていて,骨に埋め込んだ人工内耳のインプラントを覆って皮膚に飛び出さないようにし,固定する役割があります。
さらに,耳の穴の骨の後ろと,顔面神経管といって,顔面神経が通っている部分の骨の間を削っていくと,蝸牛の入口である正円窓(せいえんそう)につながる,正円窓窩(せいえんそうか)というくぼみが見えてきます。このとき,鼓索神経という味を感じる神経が見えますので,傷つけないようにする必要があります。
正円窓窩が見えたら,耳のうしろを削った部分よりも更に後ろのほうで,頭の後ろに埋め込むインプラントを固定するためのくぼみを削ります。ここに,インプラントを固定します。これは人工内耳のスピーチプロセッサが磁石でくっつく場所になります。
最後に,筋肉どうし,皮下組織どうし,皮膚どうしを縫い合わせます。
Q4. 人工内耳手術の合併症は?
人工内耳手術は比較的安全な手術ですが,特に中耳・内耳に形態異常(かたちの異常)がある場合や,慢性中耳炎など感染のあった耳に手術する場合,髄膜炎の後などで蝸牛が骨化している場合などで合併症が起こりやすくなります。
代表的なものを以下に示します。
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何らかの理由で電極がすべて挿入できなかったり,電極にダメージを受けて十分に音が入らない可能性があり,再手術が必要になることがあります。
Q2. 3) でお答えした通り,人工内耳の電極を入れるために,顔面神経に非常に近いところの骨を削りますので,ここを傷つけると麻痺が出るおそれがあります。直接神経を傷つけなくても,削るときの熱でダメージを受けることがあるので,通常は十分に水をかけて冷却しながら削ります。一時的な麻痺の場合は,数か月で治癒します。
Q5. 人工内耳と補聴器の違いは?人工内耳をすれば「よく聞こえるよ」と言われたがそんなに違うの?
結論からいえば,補聴器では十分な聞こえが得られない人の場合,人工内耳にすると聞こえが改善します。
人工内耳は高度から重度の感音難聴(内耳性難聴)をお持ちの子どもさんが,音そしてことばを獲得するために有効な方法です。両耳にすると,さらに聞きとりの改善が期待できます。
しかし,聞こえる人に比べると十分とはいえません。ですから,人工内耳を入れて終わりではなく,むしろ人工内耳を入れたところがスタートだと思ってください。
以下に詳しく説明します。
重度の感音難聴(内耳性難聴)の人は,内耳の蝸牛の働きが極端に落ちていたり,ほとんどありません。
重度の感音性難聴の聞こえ方
蝸牛は「音を区別して聞きわけるセンサー」です。そのため,蝸牛に障害のある感音難聴(内耳性難聴)の人では,「伝わってきた音がなんの音かわからない」ということが起こります。つまり,「音としてはきこえるけれど,ことばがわからない,何を言っているかわからない」という状態です。特に,高度から重度になると,耳で聞いてもほとんど何を言っているかわからないというイメージです。
補聴器のしくみ
基本的に「マイクで拾った音を,増幅して大きくする」ということです。補聴器を使わない状態で,音を大きくしてことばがどのくらい聞き取れるかによって,補聴器の効果はある程度決まります。
音が入っているかではなく、言葉の聞き取りが大事
たとえば,ふつうの話し声(50〜60dB)では20%くらいしか聞き取れなくても大きな声(80dB)で80%聞き取れる人なら,補聴器を使ってふつうの話し声で80%を聞くことができます。
ところが,高度から重度の感音難聴(内耳性難聴)の場合,どんなに音を大きくしても,ことばの聞きとりは50%未満になることが多いです。そのため,補聴器を使ってもことばの聞き取りが50%未満になることも珍しくありません。
人工内耳のしくみ
内耳の蝸牛を直接電極で刺激しますので,「入ってきた音の情報を電気の刺激に変換して神経と脳に伝える」という,高度から重度の感音難聴(内耳性難聴)の人で損なわれている蝸牛の働きを,電極が代用してくれます。そのため,人工内耳では補聴器に比べてことばの聞きとりが良くなります。
一方で,人間の蝸牛にある音を聞くためのセンサー(内有毛細胞)は片耳でおよそ3,500個あるのに対して,人工内耳の電極は20数本と少ないですから,ふつうに聞こえる人たちと比べると聞きとりの性能は落ちますので,人工内耳の手術をしてもふつうに聞こえる人と同じになるわけではありません。
安岡先生の場合
わたしの場合,2歳できこえなくなり,4歳で補聴器をつけ始めて,20歳(医学部に入学したあと,大学2年生)で右耳の人工内耳手術を,33歳(耳鼻咽喉科の医師として働いているとき)に左耳の人工内耳手術を受けました。
生まれたときから難聴があるお子さんが,早期に手術した例とはいろいろと違いがありますが,文章の聞き取り能力は補聴器では読唇しないとほぼ0%で,読唇しても50%未満でしたが,人工内耳では読唇なしでも片耳で約70〜80%,両耳で88%と非常に改善しました。
Q6. 人工内耳がいいよって言われるけど子供にメスをいれるなんて可哀想過ぎて勇気が出ない。
お子さんが人工内耳手術を受けるかどうかの決定は,とても悩ましい問題ですね。
どういう子育てをしたいか?
通常では言葉の聞き取りが難しい高度から重度の感音難聴のお子さんに,どのような支援をするかについてはいろいろな考え方や意見があります。
・人工内耳の手術を早期に行って,言葉を獲得する。
・聞き取りが難しいけれども,補聴器をつけて、音はいれつつ、読唇や筆談,手話を併用して生活する。
・補聴器が使えないので,読唇または手話で生活する。
どれも,間違いではありません。実際に,デフサポ代表のユカコさんも,補聴器をほぼ使わずに読唇で生活されていますし,生まれつき重度の難聴を持ちながら手話と読唇で仕事をしている後輩の内科医師もいます。
ご両親が,大切なわが子にメスを入れたくないという気持ちは普通のことだと思います。
家庭の教育方針によって選択は異なる
お子さんが痛い思いをしてまで手術するかどうか?それは,お子さんが将来どのような生活を送ってほしいかという親御さんの教育方針にかなり左右されると思っています。
たとえば将来的にある程度,ことばを使ってコミュニケーションすることを考えておられるなら,一般的には高度から重度の難聴が見つかれば,早い段階で手術をしたほうが,ことばの聞きとりに関してはよい成績が得られます。
また,早いうちに手術をしたほうが,早くきれいなことばが獲得でき,きれいな発音になります。聞こえなくなってから時間が経つほど,手術したあとのことばの獲得にも時間がかかることが多いです。
言葉の獲得を考える場合は手術によるメリットも大きい。
「ことばの獲得」に関しては,早期に人工内耳の手術をすることのメリットは大きいため,もし,親御さんがことばを介したコミュニケーションをお子さんに望むのであれば,メリットが「メスをいれる」ことのデメリットを上回ると考えて,手術を検討していただくのがよいと思います。
20歳で1stの人工内耳を入れた安岡先生の場合
人工内耳手術が一般的でない時代でした。そのため,4歳から補聴器をつけて読唇と口話で育ち,20歳である程度自分の意思が確立した状態で人工内耳手術を選択しました。自分では人工内耳の手術を受けたことは,とても良い経験であったと思っています。
しかしながら,2歳で聞こえなくなった言語獲得前難聴で,成人して20歳の時に右耳に人工内耳手術をしたため,読唇なしで耳だけで聞いて理解することが多少なりともできるようになるまで,非常に時間がかかりました。「耳だけで聞いてことばを理解する」という実感が得られるのに,およそ4年ほどかかったと思います。言葉の聞きとりの成績も,聞こえなくなってすぐに手術した人に比べるとさほどよくありません(もちろん,補聴器に比べればよい聞こえですし,機種変更や時間とともに聞こえは改善してきました)。
また,片耳だけのときは,話し言葉も他人に聞きとれるレベルではあるものの,流ちょうではありませんでした。現在は両耳に人工内耳をして改善したとは思いますが,アクセント,イントネーションなど課題は多いです。
Q7. 補聴器と人工内耳どっちのほうがおすすめですか?またその理由をぜひ教えて下さい!
補聴器と人工内耳は,しくみが違うので,単純に比較できるものではありません。
■軽度・中等度の感音難聴の場合
→人工内耳の手術は対象になりませんので,必然的に補聴器を使うことになります。
■高度・重度の感音難聴がある場合
→補聴器ではわからない情報が人工内耳で得られるようになるメリットはかなりあります。
しかし,補聴器や,手話で生活することもひとつの方法ではあります。それで充実した人生を送っている人もたくさんいます。教育方針や,文化的背景もありますので,単純に「どちらがよい」とおすすめできるものではありません。
安岡先生の場合
わたし自身は両耳の人工内耳ユーザーで,人工内耳手術を受けて本当によかったと思っています。
補聴器の時にはわからなかった,たくさんの音・ことばがわかるようになり,世界が広がりました。補聴器の時には電話もできませんでしたし,音楽は好きでしたが,音階やメロディという概念はなく,打楽器のリズムしかわかりませんでした。
人工内耳をしてすぐにことばがわかるようになったわけではないのですが,だんだんと耳だけでことばがわかることが増えてきました。
現在は電話でお店の予約をする,職場や救急隊からの電話を受ける,ということも(人の声や状況によっては聞き返しますが)できるようになってきました。
音楽も,トレーニングを受けたわけではないので,完全に音階がわかるわけではないのですが,補聴器では平坦にしか聞こえなかったメロディが,きちんとメロディとして聞こえるようになり,iPhoneやカーステレオで音楽を楽しむことができています。いま,人工内耳はわたしの生活になくてはならないものとなっています。
Q8. 2歳までに人工内耳を入れないといけないといわれますが、うちの子はもう2歳を過ぎています。遅いですか…?
これは,どんな聞こえの経過をたどってきたかに,大きく左右されます。
生まれたときは軽度〜中等度で,補聴器をつけて聞こえを補っていたお子さんが,だんだんと聞こえなくなってきた場合には,2歳を過ぎて手術をすることもめずらしくありません。そして,この場合は聞きとりや発音のきれいさも改善しやすいです。
高度〜重度の難聴があるお子さんの場合,現在は2歳までに手術をすすめられることが多いですが,なんらかの理由で2歳以降に手術することももちろんあります。しかし,遅すぎるということはありません。
過去の研究で,2歳までに手術したグループと,3歳で手術したグループ,4〜6歳で手術したグループの単語や文章の聞きとりを調べると,単語に関しては年代による差はほとんどありませんでした。文章については2歳までに手術したグループがもっとも良く聞きとれていましたが,4〜6歳で手術したグループでも70%弱は文章の聞きとりができており,補聴器に較べるとずっと良い聞こえです。
確かに,早く手術したほうが,ことばの聞きとりや後にご説明する発音のきれいさは,短期間で良くなります。しかし,2歳を過ぎて手術をしても,手術をしてから時間はかかるかもしれませんが,たくさんのことばを聞いて話すことで聞こえの改善は見込めます。
安岡先生は20歳で人工内耳を入れている。
わたしのように,ことばを獲得するよりも前に高度から重度の難聴になった言語獲得前難聴の人は,今までは成人してから手術を受けてもあまり聞きとりが良くないと言われていました。
しかし,補聴器を使って口話で生活しているようなケースでは,手術をしてことばの聞きとりが改善する場合もあります。わたし自身も,2歳で聞こえなくなってから補聴器を使って生活し,20歳で右耳・33歳で左耳に手術を受けて,静かなところで文章であれば88%の聞きとりが得られています。
聞こえなくなってから,早く手術を行ったほうが,回復も早いのは事実です。
しかし,遅すぎるということはないと思っています。それには時間がかかりますし,手術したあとにトレーニングを行っていくことが大切です。
Q9. 人工内耳のメーカーでおすすめはある?
現在(2020年2月),日本で承認されている人工内耳のメーカーは3社あります。
・コクレア
・メドエル
・アドバンスト・バイオニクス
聞きとりの成績に関しては,3社で差はありません。
どのメーカーを選択されてもよいと思います。選択のポイントを表にして示しましたので,参考にしてください。
3テスラのMRIを頻繁に使われる方はメドエル社がよいかと思います。
なお,現在コクレア社が人工内耳のシェア1位です。
病院によってはコクレア社しか選択できないところや,コクレア社とメドエル社の2択になるところもあります。
Q10. 人工内耳を入れると裸耳の聴力も落ちて全く聞こえなくなると言われました。
通常,人工内耳を選択するのは,裸耳の聴力がほとんどないと考えられるケースです。
この場合は人工内耳手術の前後で,スピーチプロセッサを外した時の状態は,今までと大きな変わりがありません。こういった重度難聴の人の場合は,もともと補聴器の効果がほとんどなく,人工内耳の手術をしても,しなくても,補聴器を使うことは難しいです。
そのため,お子さんが大きくなった時に,自分の意思で人工内耳を外した状態で手話などを使って生活する,という選択も可能です。
残存聴力があるケースでは,現在では低侵襲の手術・電極で蝸牛の組織をなるべく傷つけないように保護して手術を行います。100%の聴力温存ではありませんが,全く聞こえなくなることは少なく,聴力の温存が期待できます。こういったケースでも,残っている聴力で補聴器を使うのはもともと難しいことが多いです。
Q11:本人が外したいといったときや、より良い治療方法が出たときに心配です
完全埋め込み型の人工内耳や再生医療の研究が進んでいる!
内耳の支持細胞という細胞は,高度・重度の感音難聴の人や,人工内耳埋め込み術後でも温存されることが多く,この支持細胞を音を聞くための有毛細胞に変化させるような研究がされています。そして,人工内耳手術の後でも,この内耳再生医療が適応できる可能性も見いだされています。
現時点では臨床応用されるまでに,まだ時間がかかることが見込まれているので,聞こえとことばの獲得を希望されている場合には,先に人工内耳手術を受けていただくことが良いのではないかと考えています。
Q12. CTやMRIができないと聞いたのですが、人工内耳の手術をしても大丈夫でしょうか?
CTについて
問題なく撮影できます。ただし,頭のCTでは,インプラントが入っている一部の部分の画像が見えづらくなるところがあります。
MRIについて
磁力を利用して画像を撮影するため,ふつうに撮影すると磁石がひっくり返ってしまうなどの問題があり,昔は必ず局所麻酔手術で皮膚の下に埋め込んだ磁石を取り除いてからMRIを撮影していました。
いまは磁場の強さとメーカーによって,磁石を外さなくてもMRIが撮影できるようになっています。磁場の強さの単位を「テスラ」と言いますが,多くの施設が1.5テスラの機械を使っています。高度精細MRIの場合は3テスラです。
メドエル社のSYNCHRONYというインプラントであれば,3テスラまで磁石を外さずとも撮影可能です。コクレア社とアドバンス・バイオニクス社で現在使用されているインプラントは,1.5テスラまでなら磁石を外さなくてもMRI撮影可能です。この2社の場合は,3テスラのMRIを撮影するためには,磁石を局所麻酔で取り外してから撮影可能です。
いずれの場合でも,磁石を取り外さずに撮影する場合は,磁石のあるところを包帯で強く巻いて圧迫・固定することが必要です。
これから手術を受けられる場合,頻繁に3テスラのMRIを撮影する必要があればメドエル社,そうでなければコクレア社またはアドバンス・バイオニクス社を選択されると良いでしょう。
Q13. 子供にスポーツ (サッカー,野球,サーフィン,スノーボードなど)をさせたいが、大丈夫なのでしょうか?
スポーツを行うにあたって,インプラント(内部装置)の故障はまれですが,落下や汗によるスピーチプロセッサ(外部装置)の故障は起こりやすくなります。人工内耳手術をうけてスポーツを制限する必要はありませんが,そのことをふまえて,スポーツを行うときにはいくつか注意点があります。
落下防止が必要!
人工内耳のスピーチプロセッサが外れないよう,スポーツによっては固定が大切になります。ランニング程度ではそう簡単に外れませんが,激しい動きをするスポーツではヘッドバンドやヘッドギア,帽子,イヤーモールド,落下防止用アクセサリなどで落下防止を行ってください。
頭部打撲には注意が必要!
人工内耳を装着した部分を打撲する可能性の高いスポーツ,一般的にはコンタクトスポーツ(柔道,レスリング,ラグビー,アメリカンフットボールなど)を行うときには,特に頭部打撲に注意が必要です。
特に,例に挙げたようなフルコンタクトのスポーツの場合は避けた方がよいと言われていますが,人工内耳を装用して剣道や空手をやっているお子さんもおられ,競技中はスピーチプロセッサを外すなどの工夫次第でチャレンジすることは可能かと思われます。
水濡れや汗には注意が必要!
汗や水滴(雨天で競技を行う場合など)による水濡れに対しては,機種によっては汗カバーをつける,雨天の場合は帽子やフードをかぶるなどの対策が必要です。また,スポーツ後の十分な機械の乾燥を心がけてください。
最近では,コクレア社のNucleus6やNucleus7とアドバンスト・バイオニクス社のナイーダCI Q90は国際保護等級IP57の防塵・防水性能があり,コクレア社のKANSOとメドエル社のSONNETは国際保護等級IP54の防塵・防沫性能があるため,汚れや水濡れに強い機種です。実際に,わたしも過去に使っていた機種では汗による故障が何回かありましたが,新しい機種になってから起こらなくなりました。
ウォータースポーツの場合
水泳やサーフィン,カヌーなどのウォータースポーツの場合は,スピーチプロセッサを外して行うか,コミュニケーションをとりながらスポーツを楽しみたい場合,アドバンスト・バイオニクス社のネプチューンはケースなしでも国際保護等級IP68の完全防塵・防水性能があります。
また,コクレア社からは「アクアプラス」,メドエル社からは「ウォーターウェア」,アドバンスト・バイオニクス社からは「アクアマイク・アクアケース」という防水用アクセサリ(それぞれIP68)が発売されているので,それを装着したうえでキャップやヘアバンドなどで固定して外れないようにすることが必要かと思われます。
特に,プールや海,川の中に落としてしまうと,見つからないことも考えられるので落下防止は重要です。
ウィンタースポーツの場合
スノーボードやスキーといったウィンタースポーツの場合も,雪や氷による水濡れの防止や,激しい動きによる落下防止をしっかり行ってから行ってください。
Q13追加_各メーカーごとの防水用アクセサリ !
メドエルに関しては現在,ほぼ使い捨てのアクセサリになっています。
(コクレアやアドバンスト・バイオニクスも,永続的に使えるわけではなく,破損したら新しいものに交換するように推奨されています)。頻繁にウォータースポーツを行う可能性がある場合は,現時点ではコクレアかアドバンスト・バイオニクスを選択されるほうがよいかもしれません。また,これらのアクセサリを使用する場合,通常は充電池を使用します。
KANSOは充電池がなく,通常の空気亜鉛電池が使用できないため,LR44アルカリ電池やSR44酸化銀電池を使用しますが,これらは空気亜鉛電池に比べて動作時間が短く1〜3時間程度しか動作しないので長時間の使用には向きません。
防水用アクセサリは,スポーツの時だけではなく,温泉も含めたお風呂のときにも使えます(サウナは使えないのでご注意ください)。
故障に備えて,予備の人工内耳をお持ちいただく,または病院に連絡して代替機を用意してもらう,人工内耳の動産保険に入るということも検討されるとよいかと思います。
ぜひ,事前の準備をしたうえで,スポーツを楽しんでください。
安岡先生は柔道をしていた!
ちなみにわたしは大学時代,実は柔道部でした。
その当時はフルコンタクトスポーツは禁止,と主治医に説明を受けたため,人工内耳手術後は柔道の選手としては活動しませんでした。補聴器の時は普通に柔道をやっていましたので,故障のリスクはありますが,完全にできないわけではなかったかもしれないと今は思います。
今は,ゆるい筋トレのときは家の中なので特に落下防止対策をしておらず,ウォーキング,ランニングのときは帽子をかぶって落下防止をしています。一時期テニスもしていましたが,その時はヘアバンドで落下防止していました。人工内耳をすることによって,活動が制限されると感じたことはなく,日々楽しく過ごしています。
Q14. 人工内耳の手術の直後,やんちゃなので頭をぶつけたりしないかが心配です…。
お子さんの場合,やんちゃなのもそうですが,頭が大きくてバランスが取りづらいので,こけやすいですね。確かに,お子さんのほうが人工内耳手術のあと,頭をぶつけて機械の故障を起こすリスクは,大人に比べて高いです。
ただ,報告にもよりますが,その頻度は子どもの手術全体のうちの,0.2〜4.5%と高すぎるわけではありません。
また,コクレア社によれば,人工内耳のインプラントは多少頭をぶつけた程度では故障しないとのことです。強い衝撃を頭に加えないほうがよいと言われていますが,少し当たったくらいでは問題ないようです。
人工内耳を装用されている親御さんの中には,帽子をかぶったときに,送信コイル・インプラントが当たる部分の内側に肩パットを縫い付けて,頭をぶつけたときのクッションになるようにされている方もおられるそうです。
ベビーヘルメットや,ヘッドガード,転倒防止リュックの使用も検討するとよいかもしれません。
Q15. 人工内耳をしたら磁石のおもちゃでは遊べなくなるの?
コクレア社によれば,磁石のおもちゃは磁力が弱いため,特に影響はないとのことです。
ですので、磁石などの制限を気にしすぎずに、お子さん本人が楽しみたい磁石のおもちゃでたくさん遊んであげてください。
Q16. 人工内耳のデメリットは?
合併症のリスクが有る
人工内耳は,どうしても手術をすることになるので,Q3. でお答えしたような合併症が生じることがあります。入院が必要になり,痛みもあります。
MRI・電気メスなどに注意が必要
人工内耳手術を受けて制限されることは主に医療上の制限で,MRIの撮影に注意が必要であること,人工内耳手術以外の頭の手術で電気メスが使えないこと(代用の器具は他にもあるので,手術に問題はないことがほとんどです),電磁波や放射線を人工内耳が入っている部分に当てないこと,うつ病に対する電気けいれん療法が行えないことです。
メンテナンス費用がかかる
また,機械ですので,メンテナンス費用がかかります。
買い替えや電池代に関しては,お住まいの自治体によっては補助が出るところもありますが,人工内耳のための費用を積み立てておく必要があるかもしれません。
スポーツの制限がある
人によってはスポーツでの制限を感じることがあるかもしれません。わたしの場合は,もともと大学生時代に柔道をやっていたので,選手として活動できなくなったことくらいです。
お子さんの場合は,これらのデメリットよりも,聞こえとことばを獲得するというメリットが大きいと思われます。
他にも疑問点有りましたらいつでもデフサポまでお問い合わせください。
なんと1万字超えの長文!本当に色々と疑問点にお応えくださったのできっと多くの親御さんにとってもプラスになるのでは?と感じています。
安岡先生、本当にとっても丁寧にご解説くださいましてありがとうございました!