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人工内耳を付けたら不自然な機械のように聞こえる?両耳したほうがいいの?様々な疑問、人工内耳装用者でもある安岡医師が回答!

人工内耳について、ご自身も人工内耳を装用されている安岡公美子医師にいろいろと教えてもらいました!なかなか聞こえ方について言語化出来る人が少ない中、本当にわかりやすく説明してくれる安岡先生。
本当こちらの記事も必見です!

前回はこちら!

今回もいろんな疑問に答えてくれる安岡久美子医師!

安岡先生

はじめまして。滋賀県で耳鼻咽喉科医をしている,安岡公美子と申します。わたし自身が両耳にコクレア社の人工内耳を装用している人工内耳ユーザーでもあります。

・2歳頃からの高度〜重度難聴
・読唇と口話でのインテ(普通学級)
・大学2年(20歳)で右の人工内耳
33歳で左の人工内耳装用
・現在滋賀県で耳鼻咽喉科の医師

生まれつき聞こえなかったのか?

生まれたときは聞こえていて,途中までは歌もおしゃべりも大好きな子どもだったようです。ところが,2歳ごろから声をかけても反応しなくなり,当時は医療機関に受診しても診断ができず,4歳で幼稚園に入園する前の健診で聴覚障害を疑われて大学病院で精密検査を行ったところ,高度〜重度感音難聴と診断されました。先天性難聴ではありませんが,ことばを完全に獲得する前に難聴になった,「言語獲得前難聴」という状態です。

補聴器をつけてインテグレーションをしていた

診断されてから補聴器を両耳につけて,読唇と口話で育ち,幼稚園から高校まで普通学級で過ごしました。

中学3年生のころから医学部医学科で聞こえについての研究をしたいと思うようになり,高校卒業後はそのまま現役で滋賀医科大学医学部医学科に入学しました。当時はいわゆる「お医者さん」になれるとは思っていませんでした。

人工内耳を入れたきっかけは?

入学後,大学2年生のときに授業についていけずに留年したことをきっかけに,人工内耳手術を勧めていただき,20歳で右耳の手術を受けています。

その後,滋賀医科大学を卒業して研修医として2年間働いたのち,耳鼻咽喉科の医師になりました。33歳で左耳にも人工内耳の手術を受けて,現在は両耳とも人工内耳を装用しながら,滋賀県にある小さな病院で,耳鼻咽喉科医がひとりだけという環境で日々奮闘しています。

Q1. 人工内耳は両耳にするほうがいいの?

現在,日本耳鼻咽喉科学会が定めている「小児の人工内耳適応基準」で,「両耳聴の実現のため人工内耳の両耳装用が有用な場合にはこれを否定しない」となっています。

両耳で音を聴くと,片耳では得られない「両耳聴効果」とよばれる効果があります。

①両耳加重効果
→ひとつの耳で聞くよりも,ふたつの耳で聞いたほうがより小さい音・遠くからの音が聞こえる

 

②両耳スケルチ効果
→雑音のなかでもことばが聞きとりやすくなる

③頭部陰影効果

→音のした方向がわかりやすくなる

そのため,片耳が聞こえないと小さな音が聞こえにくい,雑音のなかでの会話や何人かの会話が苦手になる,音のした方向がわからないというデメリットがあります。
現在はことばの獲得のために,必要ならば両耳に人工内耳をすることが多くなってきました。

健聴者と、人工内耳装用者のうるさい場所でのきこえの違いや、方向の理解の比較


Bのグラフは,雑音を大きくして,どのくらいことばが聞き取れるかを表しています。

①うるさいところでことばを聞いた場合

聞こえる人:雑音がかなり大きくなってもしっかりことばが聞きとれる
両耳に人工内耳をした人:雑音が大きくなるとかなり聞きとりが落ちる。

Cのグラフは,右下の図のように並べたスピーカーから音を出し,どこから音がしたかを答えるテストを行って,正解の位置と答えた位置の誤差を調べた結果です。誤差が0に近いほど方向がよくわかり,数字が大きくなると方向がわかりにくいことを意味しています。

②どこから音がしているかを判断する場合

 

聞こえる人:うるさくなっても音がした方向がある程度正確にわかります。
片耳だけ人工内耳をした人:静かなところでも音の方向がほとんどわかりません
両耳に人工内耳をした人:静かなところであれば聞こえる人に近いくらい方向がわかります。しかしうるさくなってくるとどんどん方向感覚がわからなくなり,誤差が大きくなってきます。

(引用:Litovsky RY, et. al., J Am Acad Audiol 23(6); 476-94, 2012)

人工内耳を入れてからがスタート!

繰り返しになりますが,人工内耳のきこえはきこえる人に比べると十分とはいえません。ですから,人工内耳を入れて終わりではなく,むしろ人工内耳を入れてからがスタートです。

人工内耳をしたお子さんに限らず,難聴のあるお子さんはことばの獲得にハンディを負っています。積極的にことばを獲得するために,語彙を増やす,表現力をつけるトレーニングをしていく必要があります。

安岡先生の場合

わたしの場合は,片耳ずつだとうるさいところでの文章の聞きとりは約20%です。両耳にすると,うるさいところでの聞きとりでも70%強まで改善します。
ただし,これもふつうの人と違うのは,ふつうの人はかなり大きな雑音のなかでも聞きとれるのに対して,人工内耳を両耳した人だと雑音が大きくなると聞きとれなくなってしまいます。

Q2. 人工内耳をしてすぐの聞こえ方はどんな感じ?

個人差がとても大きいです。

 

お子さんの場合は,補聴器をしていたお子さんであっても,人工内耳は補聴器よりもずっとたくさんの音の情報が入るため,とてもうるさく感じてびっくりすることが多いです。人工内耳で音を入れると,静かなところからいきなりうるさいところに放り込まれたような状態です。

子どものころは聞こえていて,大人になってから聞こえなくなって人工内耳の手術を受けた人の場合,最初からよく聞こえるという人も少しはいますが,大きな音がしてうるさい,機械の音のように聞こえる,全部がピアノの音のように聞こえるという人など,最初の印象が必ずしも良いものではないことも多いです。

ですから,大人でも子どもでも,人工内耳は音を入れてからのリハビリが大切で,特にお子さんの場合は専門の言語聴覚士(ST)さんと協力して,少しずつ音を入れてトレーニングする必要があります。

Q3. 人工内耳はロボットの声みたいに聞こえるって本当?

これも,個人差がかなり大きいです。生まれたときや、小さい頃に聞こえなくなったお子さんの場合は自然に聞こえると感じることも。

先天性・幼児期に聞こえなくなった場合

生まれたとき,または小さいころに聞こえなくなって,補聴器でも上手に聞こえないために人工内耳の手術を受けた人の場合,「ロボットの声」というのがどういう声か理解できていないというのもあり,そのように感じないことも多いです。

ある程度成長してから聞こえなくなった場合(中途失聴者)

最初は聞こえていて,ある程度成長してから聞こえなくなった人の場合,昔の聞こえの記憶がしっかり残っているため,特に手術をした後に音を入れて間もないころはそのようにおっしゃる方もいます。そういった方でも,通常は時間の経過とともに(どのくらいかかるかは個人差が大きいですが),たくさんいろんな音を聞いていただくことで、だんだんと脳が変化して「自然な聞こえ」になっていくことが多いです。

Q4. 人工内耳を入れたらそれで発音も良くなると聞いたのですが、実際発音は良くなりますか?

結論からいえば人工内耳手術で,発音はよくなることが多いです。ただし,「ことばを話す」ためには,自分や他人の発していることばを聞いて,まねる,ことばの出し方を体に覚えさせる,というトレーニングが必要です。

 

だから,人工内耳の手術をすれば,何もしなくても発音がよくなるというわけではありません。

発音のきれいさのことを「構音(発話明瞭度)」といいますが,構音に影響する要素は大きく分けて以下の3つがあると言われています。

①聴取能(聞きとりの成績):

単語の聴きとりの成績が75%以上の場合,発音も良くなる傾向があります。自分や他人の発していることばを聞く力が,発音に関わるということですね。

②教育機関

特に小学校で,一般的にはろう学校よりも,地域の普通学級にいかれているお子さんのほうが,発音は良くなることが多いです。これは十分なことばの聞きとりができても,それを発音して表現する機会が,圧倒的に普通学級のほうが多いためです。ことばを聞くだけではなく,話す機会をたくさん作ることが大切です。

③手術時の年齢

先天性難聴のお子さんでは,手術した時の年齢が早ければ早いほど,短期間で,かつきれいな発音が得られると言われています。ただし,生まれた時は軽度から中等度の難聴で,適切な補聴器装用でことばのトレーニングをしてきたお子さんの場合は手術時期が遅くても,良い発音が得られることも多いです。また,手術時の年齢が遅くても,トレーニングにより時間とともに改善してくるとも言われています。

逆に,人工内耳を入れて音の情報が入るようになっても,それを使ってことばを聞き,自分がことばを使うトレーニングをしないと,発音が良くならないケースもあります。聞きとりもそうですが,発音も人工内耳を入れたらおしまいなのではなく,しっかりと活用できるようにどんどん使っていくことが大切です。

安岡先生のオペ後の聞こえ方

補聴器での聞こえ方

ちなみに,わたし自身は両耳に補聴器をしていた期間が16年ほどありましたが,もともと重度難聴で補聴器では十分な聞こえでなかったこともあり,補聴器のときが「自然な聞こえ」だったとは思わないです。むしろ,補聴器ではのっぺりとした平坦な感じ,こもった感じに聞こえていました。補聴器のときには気がつかなかったのですが,人工内耳にしてはじめて,補聴器では非常に限られた音しか聞こえていなかったということがとても良くわかりました。

人工内耳にしてからの聞こえ方

,徐々にではありますが音の3要素である「大きさ」「音程」「音色」,そして音楽の3要素である「リズム」「メロディ」「ハーモニー」の概念が理解できるようになりました。補聴器のときは,「大きさ」と「リズム」しかわからず,非常に狭い音の世界で生きていました。

 

たとえば,補聴器をしていたころは,人の声を区別して聴くことはできず,声だけで誰が話しているかはまったくわかりませんでした。あそび歌の「かごめかごめ」で,聞こえている友だちは,「うしろの正面だあれ?」で声を聴いて誰がうしろにいるか当てているのですが,これが補聴器だとわからなかったです。人工内耳になってから,電話口で名乗られなくても,聞き慣れた声の人なら「○○さんだな」とわかるようになりました。両親の声も実は補聴器のときは他の男性や女性の声とまったく区別できなかったのですが,今では顔を見なくとも父や母が話しているということがわかりますし,実家に帰って別の部屋にいて呼びかけられても,誰が呼んだかわかります。

モノマネの芸人さんが声色でモノマネするのも笑えるようになりましたし,聞こえる人がアニメなどで「このキャラクターとあのキャラクターは同じ声の人」という意味が理解できるようになりました。落語家さんが声色でキャラクターを演じ分けている,というのもよくわかります。

音楽については,人工内耳で通常,音程やメロディの聞き分けが困難だというふうに言われていますが,トレーニング次第なのではと感じています。低いドと高いドなら確実に音が違うのがわかりますし,ドとレの差は微妙でも,ドとミは違うことがわかります。補聴器では,わたしの耳ではドとミの違いをとらえることはできませんでした。

聞こえる人は意識していないかもしれないのですが,聞こえないとこういった多彩な音の世界に触れることができません。人工内耳も聞こえる人に比べたら十分な聞こえとは言えませんが,補聴器に比べるとずっと多彩な音に触れる機会が多くなり,自然な聞こえに近づけるのではないかと考えています。

 

人工内耳の聞こえ方はどんどん変化する!

安岡先生

人工内耳は最初の聞こえがすべてではなく,どんどん聞こえ方が変化するものです。それをもう少しわかりやすくするために,自分の経験をお伝えします。

わたし自身はもともと,2歳で聞こえなくなって,4歳から補聴器,20歳で右耳人工内耳手術をしたため,ことばを耳で聴いて理解するという感覚がほとんどない状態でのスタートでした。

そのため,最初はいろんな音が補聴器に比べてとても大きく聞こえ,びっくりしたのを覚えています。

お子さんの人工内耳手術とはまた違うと思いますが,わたしが人工内耳手術を受けたときの音の世界をイメージでご紹介します。

 

下図は手術の前の聞こえかたです。音の世界はこの丸の中の非常に限定された世界だけで,しかもこの丸の外に音がある,ということを想像できませんでした。この丸の中ですら,何かあるのはわかるけれども,ぼやけていてつかみどころがありませんでした。

人工内耳で音入れをすると,まず,単純に音が大きくなりました。補聴器を使用していたころは,聞こえていない音があること自体を認識できなかったことに初めて気づきました。たとえば雨が傘に当たる音,換気扇やエアコンの音,蛇口から水が落ちる音など,いままで聞こえていなかった音が入るようになりました。

ことばの聞きとりについては,下の図が手術前の補聴器での聞こえだとすると,

はじめて右耳に人工内耳手術をしたときの聞こえが下の図のようになります。手術前より音は大きくなりましたが,人工内耳だけでことばを聞き取ることは難しく,唇を読んでことばを理解していました(コクレア社 ESprit使用)

わたしの場合は右耳に古い電極(CI24Mインプラント)が入っていて,右耳のスピーチプロセッサを最初のESpritから何台か機種変更しています。時間の経過とともに,耳で聞く情報量が増えてきたこと,スピーチプロセッサの性能がよくなってきたことで,少しずつことばの聞きとりが改善してきました。

右耳手術後4年目に,ESprit 3Gというスピーチプロセッサに変えると,ことばがより大きく,はっきり聞こえることに気づきました。このころから,簡単なことばなら読唇しなくてもわかることが少しずつ増えてきました(下図)。

6年目に,更にfreedomという機種に変えると,下図のように,より自然に聞こえるように感じられました。

しかし,雑音が入る状況や大人数での会話では,やはり聞き取りにくかったです。

9年目にNucleus 5に変えると,うるさい環境でも少し聞きやすくなった印象でした(下図)。

左耳を手術後に両耳で聞くと,雑音からことばがくっきりと浮かび上がって聞こえるようになりました。音の立体感ということも,両耳で聞くようになってから初めて実感しました(下図)。いま,右と左のどちらか片方を外すと,とたんに音がのっぺりと平坦に聞こえて心もとない感じがします。

最初の聞こえから大きく変わったことがおわかり頂けるでしょうか。

人工内耳はあくまでも音を聞くための入口であり,「ツール(道具)」に過ぎません。新しい「ツール」を使うときには,だれでもわからないことが多く,不安になりますよね。でも,どんどん使っていくうちに使い方を覚えて,活用できるようになります。最初の反応や,使い方を覚えるペースには個人差があるので,人と比較せず,その人なりのペースで使ってもらうとよいと思っています。そして何より,使うことを楽しむことが,使いこなせるようになるためのいちばんの近道だと思っています。人間,苦しい・しんどいことは続きません。楽しい,おもしろい!と思って使ってもらうために,お子さんのペースにあわせて,専門の言語聴覚士(ST)さんと一緒に,楽しみながら使ってもらえるとよいなと思っています。

 

 

Q21. 人工内耳をして不便なことはある?

 

わたしの場合ですが,人工内耳手術をして不便を感じたことはないです。

むしろ,人工内耳は生活になくてはならないツールで,非常に音の世界が広がって便利になりました。補聴器だったときは,電話ができない,テレビを楽しめないなどの不便を感じることが多かったですが,人工内耳手術を受けてから電話やテレビ,音楽が楽しめるようになり,世界が広がっています。

 

人工内耳手術を受けた人たちの感じ方はさまざまで,もともと音に対する興味が少ない人の場合,逆に音がわずらわしく感じる人もいるようです。聞こえるのに,ことばとして十分に聞き取れないのでわずらわしい,うるさい,といった評価になり,結局使っていないという人もおられます。

静かな音の世界で手話を使って生きるほうが楽だ,という意見もあります。

 

どのような評価をお子さんがされるかはわかりませんが,人工内耳はあくまでもツール(道具)に過ぎません。そのツールをどのように使うか,どうやって使うかは自分しだいです。

繰り返しになりますが,人工内耳のきこえはきこえる人に比べると十分とはいえません。ですから,人工内耳を入れて終わりではなく,むしろ人工内耳を入れてからがスタートです。

 

ぜひ,人工内耳というツールの特徴や使い方を知って,人工内耳手術や手術のあとの音入れをサポートしてくれる病院と連携しながら,聞こえとことばの力を育んでください。