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小児の難聴・聴覚障害について基本を耳鼻咽喉科の医師が徹底解説!

ユカコ

小児の難聴・聴覚障害について白井先生に書いていただきました!実は学会で出会ったり、勉強会でお会いしたりしてから、年も近いし、療育の大切さなどを実感していて話が盛り上がって、一気に仲良くなったDrでもあります。めちゃめちゃ美人な女医さんです♡

耳の仕組みについて

耳は外側から順番に、外耳、鼓膜、中耳、内耳に分けられます。
音は外耳から入って内耳まで伝わったあと、聴神経を通って脳に音やきこえの情報が送られます。

外耳である耳介や外耳道で音を集め、鼓膜で音の振動を受け止めます。
中耳には耳小骨という三つの骨があり、関節でつながっています。
内耳は骨で囲まれ、中にはリンパ液が入っていてリンパ液の中にきこえの細胞(有毛細胞)が浮かんでいます。

どういうふうに聞こえていくのか?

中耳と内耳は二つの窓を隔ててつながっています。音の振動は中耳、耳小骨を通りながら増幅されていきます。増幅された音の振動はその窓から内耳の蝸牛に伝わり、リンパ液を揺らします。
するとリンパ液の中の細胞が刺激され(脱分極)、振動としての音が電気信号に変わり、聴神経、脳へと情報が送られます。脳では他の情報と統合させて音やことばの意味を理解します。
外耳〜中耳は、音を集めて増幅させて伝える働きを、内耳〜脳は、音を分析して解読する働きをしているのです。

難聴(聴覚障害)の種類について

難聴の原因になっている場所によって、3つに分けられます。

・感音難聴
・伝音難聴
・混合性難聴

感音難聴

感音難聴は“音を感じとる(分析する)”のが難しい難聴です。つ
まり、振動としての音の伝わりには問題がないけれど、伝わってきたゴールである内耳、神経、脳になんらかの原因があり、音をきく、ことばをききとることが難しいですというタイプです。感音難聴は難聴の原因となっている部位により、さらに①内耳性難聴 と ②後迷路性難聴 に分けられます。

① 内耳性難聴
内耳に原因がある難聴です。多くの先天性難聴や加齢性難聴はこのタイプです。

② 後迷路性難聴
迷路というのは内耳を指します。つまり、内耳より後ろ、聴神経や脳に原因のある難聴です。
先天性の蝸牛神経欠損や、聴神経腫瘍はこのタイプを示します。

 伝音難聴

外耳や中耳に原因があり、音が伝わりにくい難聴です。逆に言えば、音が十分に伝わりさえすれば、内耳や聴神経に問題はないためことばはききとれます。先天的な外耳道閉鎖症や耳小骨奇形、乳幼児期に多く見られる滲出性中耳炎ではこのタイプを示します。

3) 混合性難聴

感音難聴と伝音難聴の両方が合併している難聴です。中耳奇形と内耳奇形の合併などでみられます。

難聴だと、どんなふうに聞こえるのか?

同じ聴力レベルでも感音難聴なのか伝音難聴なのかによってきこえ方は異なります。

感音難聴は音を分析する内耳以降に原因があるため、きこえ始めの音からうるさいと感じる音の大きさまでの幅、“きこえの幅(ダイナミックレンジ)”が狭くなっているのが特徴です。小さな音がきこえないだけでなく、大きな音は不快に感じます
この小さい幅でききとらなくてはいけないため、音は聞こえても、ことばがゆがんだりひずんだりすることからききとりの困難につながります。

伝音難聴では内耳は正常なためきこえの幅はあまり狭くならないので、音さえ大きくすれば歪まずにききとれます。したがって同じ聴力レベルでも感音難聴か伝音難聴かにより、言語発達や発音にも違いが見られます。

生まれつきの難聴は治るのか?良くなることはあるのか?

伝音難聴であれば根本的な治療が可能です。
例えば、外耳道閉鎖症であれば外耳道をつくる手術を、中耳の奇形であれば耳小骨がうまくつながるような手術で難聴を改善できます。滲出性中耳炎などでは年齢が上がるとともに自然に水が溜まらなくなり良くなっていくこともあります。

先天性の感音難聴で内耳や神経に原因がある場合には、きこえの細胞は再生しないため、現状ではいわゆる根治治療は困難です。

乳幼児期にできる検査には限界がありますので、当初の検査結果が正確な聴力を反映しておらず、成長とともに聴力検査結果の信頼性が増してきて“良くなる”ことはありますが、感音難聴の場合、本来の意味で“聴力が徐々に良くなる”可能性は考えにくいです。

先天性の難聴者が生まれてくる割合はどれくらい?

先天性難聴で出生時から難聴がみられる割合は0.1%、およそ1000出生に1人と言われています。先天性疾患の中でも頻度が高いために、また、早期発見と早期介入により予後の改善が期待できることから新生児聴覚スクリーニング検査が開始されました。

dBとは?

“音”と一口に言っても、“物理量としての音”と“感覚量としての音”があります。つまり、“物理的な振動波”を示す場合と、“その振動波が耳で引き起こす感覚”を示す場合があります。

感覚量としての音を示すときに用いる、聴力レベル(Hearing Level;HL)とは、その人に聞こえる一番小さい音の大きさのことです。正常聴力の人が聞きうる最小の音を0dBHLと表します。

dBは対数表示なので、10dBとは0dBの10倍の強さ(エネルギー)をもった音であり、20dBは0dBの100倍30dBは0dBの1000倍の強さの音です。


本来音圧の単位はPa(パスカル)で表しますが、人の聴覚を起こす音圧は20μPa〜2,000,000μPaまで幅広くそのままでは不便なため、その対数を持った相対的比較尺度としてdBを用います。また、dBは相対的尺度なので基準値が必要であり、その基準値により一口に“dB”と言ってもいくつかの種類があります。

感覚量としての音を示すときに用いる、聴力レベル(Hearing Level;HL)とは、その人に聞こえる一番小さい音の大きさのことです。正常聴力の人が聞きうる最小の音を0dBHLと表します。
物理量としての音の大きさは、音圧レベル(Sound Pressure Level;SPL)で表します。目安としては、ささやき声が20dBSPL、小雨の音が40dBSPL、日常会話が60dBSPL、大声の会話が80dBSPL、車のクラクションが110dBSPL程度です。
例えば、60dBHLと60dBSPLを同程度の大きさの音として扱うことに生活上大きな問題はありません。しかし、厳密には単位が異なるため、そのまま比較はできず、同じ大きさの音を示すわけではありません。

難聴の重さは?(聴力とは?)

まず、一般に言う“聴力”とは、ことばのききとりに重要な音の高さである500Hz,1kHz,2kHz,(4kHz)を平均した“平均聴力レベル”のことを指します。難聴の程度分類にはいくつかの基準があります。

平均聴力が…
25dB未満→健聴
25dB以上40dB未満→軽度難聴
40dB以上70dB未満→中等度難聴
70dB以上90dB未満→高度難聴
90dB以上→重度難聴
(日本聴覚医学会の分類)

イメージとしては、軽度難聴ではささやき声や騒がしい環境での会話中等度難聴では普通の声での会話がききとりにくく感じます。
高度難聴では補聴器がないと会話が困難になります。重度難聴では補聴器をつけても聞き取りには限界があり、人工内耳を検討することがあります。

聴覚障害者の身体障害手帳の基準

身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に定められた基準により認定、交付されるもので、障害者の自立と社会参加を促進する様々な福祉サービスを受ける為に必要とされるものです。
交付には同法の指定医師の診断を受け、区市町村の役所を経由して都道府県に申請する必要があります。

障害種別により交付基準が異なりますが、聴覚障害一種類のみの場合は2級、3級、4級、6級の4種類の等級に分けられます。
いずれも両耳の(平均)聴力レベルが100dB以上は2級、90dB以上が3級、80dB以上が4級、70dB以上が6級に相当します。また、聴力レベルに関わらず両耳の語音明瞭度(ことばのききとり)が50%に満たない場合は4級に、聴力に左右差があり片耳が90dB以上ともう一方が50dB以上の場合には6級に相当します。

どのくらいの聴力から補聴器が必要?

決まりはありませんが、先天性に両耳とも難聴の場合には聴力の良い方の耳の平均聴力レベルが30dB以上であれば両耳に補聴器装用を勧めます。
しかし、そもそも新生児期や乳児期前半に聴力レベルを確定するのは容易ではなく、新生児期に軽度難聴を診断することは困難なことが多いです。

1歳頃までにはきこえに対する子どもの反応(聴性行動反応)がはっきりしてきて聴力レベルが確定してきます。ただ、かといって1歳まで何もしないで待つのではなく、軽度難聴でも両耳の難聴を否定しきれない場合には、なるべく早期から補聴器装用を開始することを勧めています。軽度難聴であっても、大きすぎる音を入れなければ、補聴器装用によるデメリットは少なく、言語発達においてのメリットが上回るからです。

難聴とわかったらやるべきこと

病院を受診し、難聴の程度や原因を検査しながらも、同時並行でなるべく早期に補聴器装用を開始しすることをお勧めします。
本当に難聴なのか、治ることはないのか、補聴器が必要なのか、といった疑問から、今後のコミュニケーション手段や療育先はどうしよう、など考え悩むことはたくさんあると思います。

ただ、考えている間にもどんどん子どもは成長していきます。乳幼児期の数ヶ月はとても大きいものです。十分な情報を一度に得られず不安や疑心が拭えないと思いますが、補聴器装用まではなるべく勢いよく進めることで、その後にゆっくり考えていく時間ができるように思います。

誕生後すぐに新生児聴覚スクリーニングの結果、引き続いての難聴診断で、お子さんの誕生や成長の喜びを楽しむことを忘れてしまうのは、新生児聴覚スクリーニングの大きな弊害です。スクリーニング検査を前向きに生かしてほしいと思います。

補聴器をつけていないと全く聞こえないの?

難聴の程度や種類にもより、裸耳でのきこえや補聴器の効果は異なります。
ただ共通して言えることは、もし十分に“ことば”がききとれなかったとしても、その言語の音韻を感じられるだけでも、後の聴覚活用や言語発達には有利といわれています。

また、乳児期においては非言語性コミュニケーションが非常に重要な役割をしています。きこえている/いないに気を取られて言葉がけが減ったり、不自然なコミュニケーションになってしまうと、発達に対していい影響を与えません。“ことば”には感情が伴います。“声色”と言うように、声には言葉以外にも感情の情報がのせられ、表情が伴い、場面に応じてそれが繰り返されることでコミュニケーションの基盤ができていきます。

聞こえないことを心配して常に大声で話す必要はありません。“小さい音が聞こえない”というより、“難しい環境では聞きにくい”と考えて、なるべく静かな環境で対面してコミュニケーションをとるよう心がけてみてください。

難聴に関わる医療は、“治す”より“支える”医療に近いと思っています。私たちも保護者の方と共に、難聴児が自分らしく社会で活躍するその日まで、ずっと携わっていきたいという覚悟で日々向きあっています。

文責:白井 杏湖

白井先生

東京医科大学病院耳鼻咽喉科の医師です。聴覚を専門とし、遺伝専門医としての難聴の診断から、人工内耳等手術、療育まで一貫して関わっています。難聴児のための児童発達支援事業・放課後等デイサービス“きこえとコミュニケーションのうさぎクラブ”でも療育に携わっています。