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難聴がわかったばかり!聴力検査のリファーや、補聴器をつける目安について言語聴覚士が徹底解説!

難聴がわかったばかりの親御さんは色々不安なことでいっぱいだと思います。
そもそも、新生児スクリーニングってなに?リファーって?というところから知らない言葉や確率などが出てくると思いますので、今回はそこを解説したいと思います。

Q:そもそも新生児聴覚スクリーニングって何?

新生児1000人のうち、1~2名が先天性難聴であるという統計があり、他の先天性疾患と比較しても難聴の頻度は高いです。そのような背景がある中で、生まれてくる赤ちゃん全員に対して病院を退院するまで、あるいは1か月以内にスクリーニング(ふるいわけ)をして、「パス」「リファー(要再検)」かに分けて早く難聴を発見してあげようというのが新生児聴覚スクリーニングの目的です。

英語で、新生児聴覚スクリーニングのことをNewborn Hearing Screening といい、専門下の間ではNHSと略されることもあります。

(本稿では、便宜上「スクリーニング」は「新生児聴覚スクリーニング」のことを指すことにします。)

通常、2回スクリーニングしても片耳もしくは両耳が「要再検」となった場合は、聴力レベルの推定に使われる精密検査が可能な機関(耳鼻咽喉科のある大きな病院など)に紹介され、精密検査を受けることになります。

Q:新生児スクリーニングはお金がかかるの?

自治体によります。スクリーニングにかかる検査の費用は、5000円程度になりますが、自治体で助成を出すところも多くなっており、検査を受ける率は年々高くなっています。(日本産婦人科医会のホームページによると、2017年の当医会調査で87.6%の児が検査を受けていることが確認されています。)

Q:新生児聴覚スクリーニングで引っかかったら?

スクリーニングというのは、ふるい分けの段階なので、まだ難聴があると確定したわけではありません。例えば、中耳に羊水がまだ溜まっている状態なら、引っかかることもあります。
ただし、スクリーニングに引っかかったら、速やかに精密検査を受ける必要があります。難聴があるかどうか、また難聴がある場合はどの程度の難聴なのを耳鼻咽喉科の医師が確定診断するのは、精密検査を受けたあとです。

Q:スクリーニングで引っかかって、実際に精密検査で難聴と診断される確率は?

日本耳鼻咽喉科学会の『新生児聴覚スクリーニングマニュアル』(2016年)によると、全国のスクリーニングで要再検査(リファー)となる赤ちゃんは、「1年間に約4000人(国内出生数の約0.4%)います。

このうち約1000人(国内出生数の約0.1%)に両耳難聴が発見されます。また同じ人数の赤ちゃんが片耳難聴と診断されます。」とあります。このことからすると、リファーされる赤ちゃんの4人に1人の割合で、両耳難聴が発見されるということになります。

Q: スクリーニングはどんな風にされるの?痛みはあるの?

自然に寝ている静かな状態で検査を行える場合は、5~10分で終了します。
検査のために耳栓を通して音を入れたり、電極シールを顔に貼ることはありますが、検査自体は安全で痛みを伴うことはありません。

Q:どんな検査機器が使用されるの?

使用される機器は、大きく分けて2種類あります。

・自動OAE(Automated Otoacoustic Emissions:自動耳音響放射検査)
・自動ABR(Automated Auditory Brainstem Response自動聴性脳幹反応)

自動ABRの使用がスクリーニングの機器として推奨されています。

自動OAEは、耳栓を通しての音が内耳に届いたときに、蝸牛が反応して特殊な音を放射しているかどうかを検出するものです。

自動ABRは、ささやき声程度の強さの音をイヤホンで聞いてもらっているときに、脳幹レベルでおこる聴神経反応を検出しています。スクリーニングで使用される検査方法は、いずれも通常赤ちゃんが寝ている間に容易にでき、検査者の経験が問われないという点で優れています。

Q:難聴と診断されたら、どうしたらいいの?

まず難聴について正しい知識を得ましょう。
精密検査を受けた病院から、支援を受けられる施設を紹介してもらい、どんな支援を得られるのか情報を得ましょう。

また、補聴器装用もできるだけ早い方がいいといえます。
ただし、難聴診断直後のご家族は、まだ難聴を受け入れていない状態かもしれません。残念ながら、ご家族が難聴を受け止め切れておらず、補聴器に対しても受け入れる体制ができていないまま補聴器を装用し始めてもうまくいかないことが多いのです。補聴器(難聴の程度によっては将来的に人工内耳)を提案するとしても、慎重に行わなければなりません。

Q:補聴器装用は早くしないといけないの?

他の箇所でも詳しく述べますが、補聴器装用が早いほど将来的な音声言語発達が有利になることは多く報告されています。人工内耳の効果が高いと考えられる重い難聴でも、人工内耳の手術に至るまで補聴器を装用し早期に対応することが望まれています。

「難聴児の早期発見・早期療育」によって、健聴児と同じぐらいの言語能力をつけてもらい、子どもの可能性を広げてあげよう、という流れが海外ではできつつあり日本でもその考え方が広まってきています。

海外の専門家たちが集まって共同の意見表明として出しているのが「難聴児の早期発見・早期療育」を具体化した1-3-6ルール(ガイドライン)です。あくまでもガイドラインですが便宜上「1-3-6ルール」とここでは記載します。

Q:1-3-6ルールって?具体的にはどういうこと?

一言でいうと難聴児の早期発見・早期療育を具体化したものです。「いつまでに」「何をする」ということが目標として掲げられています。

STEP.1
誕生〜生後1ヶ月
生後1ヶ月までに新生児聴覚スクリーニングを終了する
(産婦人科病院でパスか要再検査の判定)
STEP.2
生後1〜3ヶ月
生後3ヶ月までに精密検査を受け、難聴の診断を受ける(耳鼻科のある精密検査可能医療機関でASSRやABRの検査を受ける)
STEP.3
生後3〜6ヶ月ヶ月
生後6ヶ月までに病院か関係施設で補聴器装用を開始し、補聴器を使用しながらの療育を始める。
STEP.4
生後6ヶ月〜
最後のステップの内容や考えは各施設によって異なりますが、これには補聴器安定装用に至るための両親ガイダンスが含まれるでしょう。


公益社団法人 日本産婦人科医会より引用

表には、NHSにより、早期の療育開始に至る確率は20倍以上あがり、早期の療育開始により、コミュニケーション能力良好となる確率は3.23倍以上上昇と書いてあります。

Q:新生児聴覚スクリーニング(NHS)はどうやって始まったの?

1980年代終わりの30年ぐらい前に、米国ではNHSが提唱され徐々にスクリーニングを受ける赤ちゃんが増えていきました。例えば、1993年では5%以下の新生児が聴覚スクリーニングを受けていましたが、2006年では、95%以上になっています(資料1)。日本は、2000年ぐらいから導入が始まり、導入は遅かったものの現在となってはスクリーニング受験率に関しては米国に追いついてきています。

Q:難聴児のうちの半分は”ハイリスク”要因を持つというのは?

米国だけでなく筆者がオーディオロジストとして働いていたカナダでも2000年ぐらいまでは、難聴のリスクの高いNICUのお子さんのみに対して行っているところが多かったです。なぜなら、先天性難聴児の半分をNICU児が占めていたからです。難聴児として発見される残り半分は、正常分娩でハイリスク要因のない赤ちゃんです。また、NHS当初は、簡易にできるOAEやAABRではなく、ABR(聴性脳幹反応)検査をしていましたので検査結果の判定に検査者の経験も関係し時間も長く必要でした。ハイリスク児だけでなく、新生児全員にという考えをもとにNHSの受検率が高くなってきた背景には、「誰でも手軽にできるスクリーニング機器」の開発がなされてきたということもあります。

先ほど、難聴児として発見されるお子さんの半分は、難聴のハイリスク要因をもつ赤ちゃんとお伝えしましたが、どのような子どもがハイリスク児になるのでしょうか。乳幼児期に難聴になりやすい子どものハイリスク要因は以下の表の通りです。
(※注意:資料2の表1の英語の原文をもとに筆者が要約したものです。翻訳文責は負えませんのでご了承ください。)

10~12の難聴ハイリスク要因は、周産期だけでなく、出産後に起こりうる要因としても挙げられています。また、難聴のハイリスク児の場合は、スクリーニングでパスと判定されていても、退院後も慎重な経過観察が必要といわれています。 

Q: 両耳に難聴があるといわれました。いつから補聴器を装用したらいいの?

A: 生後6か月以内を目標に補聴器装用を開始しておいた方がいいといわれています。

これは、先に述べた1-3-6ルールを元に提唱しています。詳しくいうと、1-3-6ルールをガイドラインとして提唱し、関係団体の合意を得たのは、Joint Committee on Infant Hearing (JCIH, 2007)です。JCIHは定期的に開催されていますが、最新の意見表明は、2019年に公表されました。

Q:なかなか補聴器を装用してくれません。大丈夫でしょうか。

もちろん6ヵ月以内に補聴器が装用できるようになるというのが理想ですが、焦ってしまうのもかえって逆効果です。
補聴器装用が早いほど、音声言語獲得につながる聴覚中枢を育てることが可能になってきますが、遅すぎるということはありません。専門家と一緒になって、「焦らず、あきらめず」補聴器を安定装用できるように工夫していただけたらと思います。

Q:新生児聴覚スクリーニングをパスしました。もう他の聴覚検査は受けなくていいの?

今の時点では、他の聴覚検査は必要ありません。
ただし、新生児の時はパスとなって安心していても、その後、後天性難聴や進行性難聴が起こらないというわけではありません。とくに難聴ハイリスク要因のある場合は、スクリーニング後も慎重な経過観察が必要といわれています。 ハイリスク要因のないお子さんでも「名前を呼んでも反応が悪くなった」など、何か心配なことがあれば専門家に相談していただけたらと思います。

Q:新生児聴力スクリーニング以外でも難聴が発見されることはあるの?

あります。
3歳児検診、就学前検診、学校検診などで発見されることもあります。新生児難聴児スクリーニングで引っかからなかったけども、その後おたふく風邪のウイルスなどで難聴になる後天性難聴難聴が進む進行性難聴があるからです。

またすごく低い数字ではありますが、スクリーニング機器の限界で難聴児をとりこぼすこともあります。常に子どもの様子を観察して、少しでもおかしいなということであれば、専門家に相談してください。

◆まとめ◆

近年、新生児聴覚スクリーニングのおかげで難聴の発見が飛躍的に低年齢化しました。スクリーニングが導入される以前は、高・重度難聴の発見でも、平均2~3歳頃(資料3)でしたが、

この中には親によって気づかれたパターンも多くありました。スクリーニングが導入されている今でも親の「カン」というのは大事です。スクリーニングの判定がパスとなっていても、不安に思うことがあれば、何でも相談しましょう。

難聴の診断が早くなったおかげで、難聴児への早期介入も可能になってきました。難聴の診断を受けたあとは、正しい知識を得るために情報収集するのが第一歩となります。その第1歩となるために、この支援サイトが皆さんのお役に立てたらと思います。
もし少しでも不安なことがあれば、デフサポにも遠慮なくお問い合わせください。

矢崎 牧 先生

本記事執筆:兵庫医科大学病院の耳鼻咽喉科専属の言語聴覚士です。カナダでオーディオロジー(聴覚)の勉強と経験を積んだあと2005年に帰国しました。自分の仕事は天職だと思っています。

 

以下専門家向け(興味があればどうぞ!)

新生児聴覚スクリーニング(NHS)の普及とともに大きくなってきた問題:1-3-6ルールの生まれてきた背景

新生児聴覚スクリーニングが普及すると、難聴児が0歳児で早く発見されるようになりました。NHS導入前には考えられなかったことです。ただし、残念ながら小さいうちに難聴を発見されたにもかかわらず、うまく早期療育になかなかつながらなかった難聴児も多くいました。

1-3-6ルールを提唱した米国では、NHSの普及とともに紆余曲折あり、「早期発見早期療育」の実現のために具体的な数字をあげることによって専門家や両親への啓蒙をはかったという印象です。
NHSで早期発見された難聴乳幼児を次のステップに結び付けなければ早期発見の意味がないという専門家団体の意見だけでなく、難聴児早期療育の有効性がエビデンスとしてわかってきたからというのもこのルールの背景にあります。そのエビデンスとして有名なのが、次の項目で述べるYoshinaga-Itano先生が1998年に発表された論文です。

どんな紆余曲折があったのか

新生児聴覚スクリーニングの普及に伴い、難聴の発見が早くなされるようになりました。だからといって、すぐに難聴のケア(補聴器の装用)、親への支援などの介入が早まったというわけではありませんでした。
現場では、NHSを導入したものの、両親に対して受け入れ先を紹介できずにきちんとしたフォローができていなかったなど、混乱していた時期もありました。

米国は、世界に先駆けてNHSを取り入れたリーダー的存在であり、先に述べたように80年代後半からスクリーニングを取り入れ始めている歴史がありますが、NHSで要再検査の結果を受けたけども、結果の詳しい説明もあまりなく、次にどこの施設に行ったらいいのかわからずに何か月も右往左往していた両親もおられました。

そのような現場での混乱に対して、大きな投石となったのが日系アメリカ人のオーディオロジストでありコロラド大学の研究者でもあったYoshinaga-Itano先生だったといえます。ちなみに、ヨシナガ・イタノ先生の所属するコロラド大学があるコロラド州が全米の中でもNHSを先駆けて導入した州のひとつだったのは偶然なのでしょうか。

論文の内容は、「早期発見され、早期療育を6ヵ月以内に受けた難聴児はそうでない難聴児と比較して、有意に理解・表出言語力が高かった」(Yoshinaga-Itano, 1998)というものであり、関係者に大きなインパクトを与えました。さらに、Joint Committee on Infant Hearing (JCIH)  の意見表明報告書(2000)などの影響で、6ヵ月以内に早期療育を受けるべきだという考え方が出てきて、NHSだけの普及では不十分であるという認識が専門家の間で共有されました。こうして、早期発見と早期療育の結びつきを強める考え方が広まっていきました。

Yoshinaga-Itano先生による最近の報告

コロラド大学のYoshinaga-Itano先生らの2017年の報告によると1-3-6 ルールに従って介入を受けた子供の方が、6ヶ月以内に受けなかった子供より顕著に語彙力が上回っていた、
とあります。これは、EHDIの3ステージ効果を検討した初めての報告書といわれています。報告書によると、米国12州において8〜39ヶ月の448名の子供を追跡し、そのうち58%がガイドライン(1-3-6ルール)に従ったケアを受けられたとあります。結果をいうと、ガイドラインに沿ってケアを受けられたお子さんの平均語彙指数は、82であったのに対し、ガイドラインに沿えず介入が遅くなった子供の平均語彙指数は、75以下だったと報告されています。もちろんこれは1報告ですし、今後のデータが待たれます。

参考資料
1)Madell, J.R. and Flexer, C. Pediatric Audiology, Thieme, 2008
2)Joint Committee on Infant Hearing (JCIH). The Journal of Early Hearing Detection and Intervention 2019. 4(2)
3)Seewald, R. and Tharpe, A.M. Comprehensive Handbook of Pediatric Audiology. Plural Publishing Inc. 2011
4)Yoshinaga-Itano, C., Sedey, A.L., Coulter, D.K., and Mehl, A.L. (1998). Language of early- and later-identified children with hearing loss. Pediatrics, 102, 1161-1171.
5)Yoshinaga-Itano, C., Sedey, A.L., Wiggin, M., Chung, W. (2017). Early hearing detection and vocabulary of children with hearing loss. Pediatrics, 140
6)『新生児聴覚スクリーニングマニュアル』日本耳鼻咽喉科学会、2016年
7) 『新生児聴覚スクリーニング検査について』日本産婦人科医会ホームページ、2019/12/13