補聴器ってどうしても買うときに難しい、どれが良いのか悩む…というお話をよく聞きます。
今回矢崎先生から補聴器についてお話をしてもらいました。補聴器そのものの基本情報はこちらに記載しています。
補聴器フィッティングの前提として
補聴器選びの話に入る前に、お伝えしておきたいこと。それは、子どもの場合、補聴器の効果を大きく左右するものは、どれだけ正確な聴力検査結果が得られているかどうか、なんです。
少なくとも500Hz~4000Hzまでの左右別の聴力レベルだけでなく、どんな種類の難聴なのかまでの結果があるのが理想です。ただ、生後数カ月の子どもやある程度の年齢でも発達障害がある場合、子どもの反応をもとに聴力検査するのは難しいです。その場合は、ASSRやABRなどの脳波検査で得られたことをもとに左右別の聴力を推定して補聴器フィッティングするのが一般的です。
補聴器装用開始は早いほうが良い!
正確な聴力検査を優先するあまり、補聴器装用を開始するのが遅くなってしまうのはもったいないことです。なぜなら、脳の聴覚野を育てるためには、難聴診断後は、時間との戦いになるからです。
聴覚情報を脳に伝えてあげるのが早ければ早いほど音声言語を獲得する可能性が高くなります。
最終的には、こちらの記事で以前お話しましたように、どの程度スピーチバナナ情報が補聴器から得られているか、聴覚野が発達するにつれてスピーチバナナの中の代表音(リング6音)を聞き分けられるようになるかを確認していくことが重要になっていきます。
最初は弱めに設定する
初期の頃は、増幅しすぎていると装用を嫌がる原因にもなりますので、弱めに設定してあげることも大事です。調整は何回かに分けて様子をみながら目標値まであげていきます。聴覚発達がすすみ、子どもの反応が出てきている場合、リング6音に反応するか、どのぐらいの音の大きさに反応するか、の情報も大変参考になります。補聴器調整は、親御さんの報告や記録も参考になります。
前置きが長くなりましたが、聴力検査の結果は望ましい補聴器フィッティングだけでなく、補聴器選びにも影響します。
以下のようなことを念頭にして、専門家は補聴器選びをしています。
・子どもの年齢
・難聴の種類
・難聴の程度
・オージオグラムの形
・無線システムの必要性(例:ロジャーシステム)
子どもの年齢によって合う補聴器合わない補聴器がある
子どもが小さいうちは、耳かけ型(Behind-The-Ear, BTE)が一番使い勝手もよく、ロジャーシステムを将来的に使用する場合は一体型のロジャー受信機を取り付けられますので、耳掛けタイプが推奨されています。
※RICタイプとは
RICという補聴器の部品が一部補聴器の耳の中に入るタイプの物も一種の耳かけ型ではありますが、耳にかかるワイヤーの部分が繊細で耐久性が低いので子ども向きではありません。また、RICはレシーバーという機械を耳の中に入れて使うもので、レシーバー部分を一般的には耳の形に合わせて作るのですが、転倒して頭をぶつけた時に耳を怪我する可能性など安全面でも注意が必要です。
また、成人と違って子どもの外耳の成長は早いので耳の中に入れる部分を年齢が小さいほど頻繁に作り変える必要があります。
▲こういうのをRICタイプといいます!耳穴の中にスピーカーがあり、本体が小さくなります&ワイヤーが細いですが、子供には向きません。
耳掛けタイプのイヤモールドも小さい頃は半年ごとなど、頻繁に作り変えることにはなりますが、子どもが転んでも耳にとって優しいソフトな材料で作っているイヤモールドならば安心です。もちろん、大きな子どもならば、必ずしも耳掛けタイプでなくともいいかもしれませんが、最近は小さい耳掛けタイプも多いですし装用感もよくなってきています。海外の専門家(米国オーディオロジー協会ガイドライン)も小児には耳掛けタイプにすることを推奨しています。
子どもの年齢が小さいときにとくに考慮すること
電池を取り出して食べてしまうことを避けられるようにロックがつけられるものかどうか。また、遊んでいて床に落ちてしまうことなども想定しなければならないので、耐久性や防水性が高いかどうかもポイントです。最近の補聴器は、防水性が高くなってきているようで、そのような工夫がされている補聴器は誰にとっても使い勝手がよくなると思います。
例えば、汗のために補聴器の修理が多くなるのが夏場で、壊れるたびに修理の手間暇がかかります。頻繁な修理が避けられるという意味でも防水性が高い補聴器はおススメです。
もちろん耐久性・防水性が高いものになっている補聴器とはいえ、補聴器にとって大敵である衝撃や汗から守った方が補聴器は長持ちします。落下防止用の紐を使用し、汗をかいたときは補聴器本体をこまめに拭き取って、毎晩乾燥機に入れてあげましょう。→PHONAKさんとの対談も参考になります!
難聴の種類に応じてフィッティング
難聴の種類は大きくわけて感音難聴と伝音難聴に分けられます。(難聴とは?)両方ともの難聴の種類を持つ場合は、混合難聴といいます。種類によって、音の聞こえ方が全く異なるといっても過言ではないでしょう。聞こえる人が経験できるのは、伝音難聴の方です。耳栓をしている状態で伝音難聴を体感することは可能です。
一方、聞こえる人が経験できないのは、感音難聴です。過去の研究でも感音難聴がどんな聞こえ方になるのか体験できるように、試みられてきましたが、実際のところ、感音難聴になってみないと本当の感音難聴の聞こえ方は経験できないでしょう。
聞こえる人にとって不快な大きさのレベルの音は、感音難聴者にも一般的に不快な音になります。なので、どんな音でもむやみやたらに音を大きくすればいいというわけではありません。感音難聴の方に音を届けるには、「小さい音は大きく増幅してあげる一方、大きな音はそこまで大きく増幅しない」方法を用いることになります。
音の増幅を担っている“コンプレッション”とは?
そのような音の増幅方法を可能にしているのが「コンプレッション」といわれるもので、ノンリニア※1増幅補聴器フィッティングのコア・コンセプトです。コンプレッション(圧縮)が可能なノンリニア補聴器は、数十年前からあり、別に新しいものではないのですが感音難聴の方にはノンリニア補聴器が向いているといえるでしょう。また、ノンリニア補聴器をリニアに近い音に調整してフィッティングすることで伝音難聴の方にも使用していただけます。
補聴器の効果という点でも、伝音難聴の方はいったん音が入ったらきれいに入るので良好です。一方、感音難聴は、難聴が進んでいる方ほど音がひずみやすいので補聴器効果にも限界が出てきてしまい、調整も難しくなります。
※1ノンリニア・リニアとは
リニア増幅は、線形型増幅、ノンリニア増幅は非線形型増幅ともいいます。
ノンリニア増幅は、小さい音を大きく増幅し、大きな音をそこまで大きくしない増幅方法です。リニア増幅は、小さい音も大きな音も同じぐらい増幅します。一般的にボリュームをあげるというイメージです。
ただ、もちろんリニアにも最大音はこれまでという制限値があり、ある一定の音以上にならないように制限をかけています。
難聴の程度で補聴器の大きさが異なる
難聴の程度が重ければ重いほど、補聴器の中に入っているレシーバという部品のサイズは大きいものが必要になります。またパワーが必要なものほど電池も大きいサイズのものが必要になり補聴器は大きくなります。
大は小を兼ねるとはいえ、装着の際、小さい方が耳への負担が軽くてすむので、自分の難聴の程度にあわせて、補聴器を選んでもらいましょう。
オージオグラムの形
ノンリニア補聴器でどの程度まで圧縮ができるか、またこの圧縮比を変えられる部分がどのぐらい細かくあるのかが大事になってきます。オージオグラムの形が複雑なほど、細かく周波数帯にわけて調整できる補聴器がより良い選択となります。(オージオグラムについて)補聴器の周波数帯をどれだけ細かく分けて調整できるかは、補聴器カタログの「チャンネル数」や「バンド数」をみたらわかります。
要するに、チャンネル数が多い補聴器ほど、複雑な形のオージオグラムに対応できます。水平型は、シンプルなオージオグラムの代表ですので、多チャンネルの必要性は高くありません。一方、谷型のオージオグラムは、複雑な例といえるでしょう。
谷型のオージオグラムは、クッキーの歯形のような形をしていることから「クッキーバイト」型と海外ではよばれることもありますが、このようなオージオグラムには、多チャンネルの補聴器が必要になるでしょう。
▼クッキーバイト型の例
成人と小児の補聴器はどう違うのか?
一般的には、成人と小児は同じ補聴器を使うことができますが、フィッティングの設定上で、小児仕様に設定できます。例えば、小児用にプログラムボタンやボリュームボタンを間違って押しても変更しないように設定できます。
同じ補聴器でも、電池が取り出せないようにロックがかかるように部品をとりつける、あるいは電池をいれる部分を小児用に変えることで、安心して乳幼児にも使えるようになります。また、フックを大人用から小児用のサイズに変更することで、より耳にフィットした感じの状態で使えるようになります。
補聴器は、日進月歩で技術や形も変わっていきます。15年近く前にカナダでオーディオロジストとして働いていた時の補聴器と比較すると、随分と小型化して耐久性や防水性の点で改良されています。ハウリング抑制力も強くなっています。子どもにとって、ますます使い勝手がよくなってきていることは嬉しいことです。
矢崎 牧 先生