聴覚障害児の医療・教育環境の実態等に関する調査をデフサポで行いました。

(株)デフサポ代表  牧野友香子

株式会社デフサポでは、聴覚障害児を育てる親御さんに、アンケートを取りました。
なんと10日間で212名の方がご協力してくださいましたので、その結果とともに、そもそも聴覚障害児って?という基本情報をセットでわかりやすくお伝えしていきます!
ぜひご覧いただき、多くの方に「難聴児の置かれている環境」に興味を持っていただけますと嬉しく思います。

1、アンケートの結果の前に、難聴児についての基礎知識をお伝えします!

実は聴覚障害を持つ子どもは、世界中どこででも同じ割合で生まれてきます。大体1000人に1人といわれています。日本の場合は2021年は出生数が87万人程度でしたので、870人ほど聴覚障害のある子どもが生まれてきていると言う計算になります。

では、聴覚に障害のある子どもの親は、耳が聞こえる人、聞こえない人、どちらから生まれる割合が多いでしょうか?実は、90%以上が聞こえる親から生まれるのです。聞こえる両親のもとに聞こえない子どもが生まれるケースがほとんど、ということです。

聴覚障害者のコミュニケーション手段といわれると「手話」を思い浮かべる方が多いと思いますが、実際には「手話」以外にも「聴覚活用」(残っている聴力を生かして意識して音を聞く) 、読唇、筆談などさまざまな手段があります。特に今は、補聴器や人工内耳といった補聴機器の進化により、聴覚活用をする人が多くなっています。

ろう学校(※別支援学校、特別支援学校と言うケースもあります。)に通う子ども達と、地域の学校(※公立、私立、国立含む)に通う子どもたちの割合はどのくらいでしょうか?2016年度の「文部科学統計要覧」によると難聴児の通う学校はろう学校35% に対して地域の一般校が 65% と後者が多数派です。

※ろう学校の中に聴覚特別支援学校など含みますが、本説明では以降、ろう学校で統一させていただきます。

2、アンケート結果について(聴覚障害児の医療・教育環境の実態等に関する調査結果)

デフサポでは、”デフサポ公式LINE”を活用してアンケートを実施しました。調査日数は延べ10日間、回答数は212。回答者居住地は関東圏の47%を筆頭に、国内は北は北海道から南は沖縄まで、また海外も含めて多様な地域からの回答を得ることができました。

第1版:2020年5月25日~5月30日
第2版:2020年6月29日~7月2日

有効回答数(n=212)
難聴が判明したきっかけは、72.6%新生児聴覚スクリーニング※詳細はこちら)。それ以外は検診(1歳児検診、3歳児検診)、両親の気づきなどでした。

ここで注意したいのは、本アンケート回答者中、新生児聴覚スクリーニング受検者が9割弱ということです。つまり、難聴でありながら、新生児聴覚スクリーニング受検時には難聴が判明しないケースや、難聴ではなかったケースが 15%以上 あるということです。

有効回答数(n=212)
一般的に聴覚障害者の3割弱に重複障害を認めると言われていますが、(※障害児童内閣府資料2017年前後)本アンケートでも似た結果となり、27%の児童が何らかの重複障害を抱えている、もしくはその可能性があると回答しています。


有効回答数(n=212)
両耳とも人工内耳装用児が55%と半数以上。次いで、補聴器、バイモーダル(片耳に人工内耳、もう片方の耳に補聴器) と続きます。なんらかの補聴機器(人工内耳・補聴器など)を活用している難聴児は回答者の97% にのぼる結果となりました。

有効回答数(n=212)
難聴児とどのようにコミュニケーションをしているのか?の問いには、聴覚活用のみが77.4 %と最多でした。手話と聴覚活用の併用が 12.7 % なので、なんらかの形で聴覚活用をしている人は 91 % です。回答者の 24% は、将来的に子どもが手話と聴覚活用の両方ができるようになることを希望しています。

有効回答数(n=212)
最初に難聴が発見された病院に不満を感じている人は 52%以上。不満の理由については次で説明しますが、不満を感じた結果、セカンドオピニオンを求めて病院を変えたケースなど、51%の人が最初の病院以外に通院しています。
70% の人が現在の病院に満足していると回答しました。

こちらの回答はアンケート内では自由回答だったため、多くの親御さんが切実な想いを沢山かいてくださいました。不満・満足を大まかに分類するとそれぞれ上図のような結果となりました。

▼以下自由回答より本文そのまま抜粋しています

・出産した総合病院(里帰り出産)ではスクリーニングリファーに対するフォローが医師、看護師から何もなく、入院中、産後の検診と精神的にとても追い詰められました。その病院の耳鼻科でABR検査も行い難聴疑いが強くなりましたが、その際も結果のみ医師から伝えられ、後は大学病院へどうぞという形でフォローもどうすれば良いかも説明がなく1人でWeb検索しては鬱々とした産後を過ごしました。


・装用を早くしたかったのに何もできない期間が7カ月もあった。何のために7カ月もできなかったのかわからない。補聴器装用児には訓練がなく人工内耳には訓練があるのが納得いかなかった。障害者手帳交付対象外に対し苦悩を理解して頂けず冷たい。


・補聴器は色を何色にするかだけ聞かれた。様々なメーカーや機種の説明や、補聴器の説明はなかった。 療育の内容が不安だった。日常でどういう声かけをしたり、どう言葉がけをしたらいいかなど、具体的なアドバイスが無かった。


・小児科から2歳の時に、言葉の遅れは難聴が原因の場合もあるといわれ耳鼻科を受診したが、簡単な検査をし、言葉の発達と耳は関係ないといわれ、一年後に中等度難聴と分かった。


・最初にお世話になった病院では療育やこれからのことについてとても不安が大きく精神的にも辛かったが、それを相談できる所がなかった。(病院、療育先、市役所など) 転院してからは、信頼できる主治医や聴覚士の先生に恵まれて、安心して療育に取り組めた。

有効回答数(n=141)
ろう学校の乳幼児教育相談室に通ったことのある人の割合は 68.3% と過半数を超えます。しかし、そのままろう学校小学部に進学した子は11%約 6分の1 に 

 有効回答数(n=141)
ろう学校への満足度は半分よりも多く、64.5%の人が満足しています。
乳幼児教育相談から小学部までを含みます。

ろう学校への満足点、不満点に関しては、指導方針に左右される部分が大きいようです。不満点として挙げられたなかには、教員の意見が(手話に?)偏っていると感じた、聴覚活用を否定された、人工内耳を否定されたというものがありました

逆に、満足点としては、親身になって話を聞いてくれた、相談するときに先生の雰囲気がよかったという声が多くみられました。

▼以下自由回答より本文そのまま抜粋しています

・同じような状況の子と触れ合えるのは良かったが、親の望む教育はしていただけなかった。 基本的に手話での会話で言語、発語についての教育はほぼ無し。個々の能力によって臨機応変に対応してくれない。
・授業は日本語対応手話と音声との併用で、プロジェクターなども使用し、視覚情報が豊富です。学期に2回個人懇談もあり、個々のニーズや発達課題にも親身に相談に乗ってくださいます。


・人工内耳装用に否定的な講師が医学的根拠に基づいていない人工内耳の情報を流していた。誤った知識を拡散しないで欲しい。


・夫が病気で休職しているにもかかわらず子どもの為には母親も仕事を辞めないといけない、生活保護という手がある、と母親の就労に否定的で、わが家そのものを否定されたようで不快だった。また人工内耳適応のケースだったら両耳とも人工内耳にしたいと伝えたところ、将来お金がかかるからかわいそうと言われた。母親は仕事を辞めるべきというアドバイスに従わず、働く母親で国際結婚家庭という少数派だったからかもしれないが、寄り添う気持ちが感じられなかった。今でも本当に嫌な思い出。同じ療育に楽しく通われている人もいるので、なぜうちはそんなに冷たい対応をされたのだろうと疑問です…。


・親の気持ちに寄り添ってくれた。 手話一点張りかと思ってたけれど、人工内耳に対しても理解を示していたし、実際生徒も人工内耳の子も多かった。そしてなぜ手話が必要なのかもきちんと説明をして下さって、難聴者の聴こえの理解や手話の必要性などがやっと理解できた。親に対しても配慮があり、無理せずゆっくりと始めていけば良いという考えで、家庭で無理なくやれることを具体的に教示してもらえた。

有効回答数(n=143)
地域の学校・園への満足度は大変高く、76.3%となっています。

柔軟に対応してくれた、理解があったの場合、満足度が高く、配慮を断られると不満度が高くなると言った結果になっています。

▼以下自由回答より本文そのまま抜粋しています

・加配の先生はつけられなかったものの、個別懇談の時間をとっていただいたり、ロジャー(補聴器や人工内耳にマイクの音を無線でダイレクトに届ける補聴援助システム)を使用してくださったり、席や運動会での合図など配慮していただけています。少人数の園なので、他のクラスの先生や友達にも気にかけてもらえています。メドエルの人工内耳についての絵本があるのですが、全クラスでその本を読み聞かせしていただき、子供たちが難聴について理解ができるような工夫もしてくださいました。

 

・相談した内容はもちろん、親が気づいていない点についても幼稚園側からできる配慮を提案してくれた。耳だけにとらわれず、子どもの個性や良いところを認め、親子ともに自信をつけてくれた。


・普通小学校は、本当に担任の先生による。 積極的に配慮を行ってくれる先生もいれば、まったく何もしてくれない先生もいる。 クラスの雰囲気がそれで決まってしまい、暖かい雰囲気の中みんなに助けてもらえることもあれば、ギスギスした冷たい空気の中、誤解されいじめられたこともある。 毎年、サポートブックを作り丁寧に説明をしているが、先生によって格差が生まれる。 また、配慮を求めるときに本人が勇気を出して言っても、先生が「みんなにずるいと言われるからダメ」などと言って、本人の気持ちを折ってしまうこともあった。 先生が差別意識を持っている場合もある。 熱心な先生は、難聴児がいることを逆手にとりお互いに思いやることを教えてくれ、クラス全体を成長させた。息子の存在に感謝の言葉すらかけて下さった。


・幼稚園では加配の先生がすごく気にかけてくれました。 (上の先生方?も) ほかの先生方も親切に相談にのってくれました。でも、小学校では、入学前にロジャーを使ってほしいとお願いした時は次のように断られた。「もし、この子が先生が言ってる事や指示が聞こえなくても、困っていたらまわりの子ども達が助けてくれる。うちは子ども達が助け合うことを重視しているので「この子は聞こえにくい子です」と言われても「あーそうなんだー。だから?」という感じで他の子と同じです。」「補聴器の子は初めてで、精密機器をいろいろ持って来られるとこちらも恐い」と。
家庭訪問の時に担任と加配の先生に再度お願いして、最後にはロジャーを使ってもらえましたが、地域の一般公立校に入れるというのはこういうことなんだなと痛感しました。

考察

今回はアンケートの結果の中でも、産後から小学校入学までの難聴児家庭へのサポートに対する満足度に関するものを取り上げて、実際の親御さんのお声を紹介しました。
実はデフサポを立ち上げてから、北海道から沖縄までの全国や、海外の難聴児の親御さんとお会いする中で、いろいろと各地の事情や医療現場、教育現場で起きている困りごとなどを聞くことが毎日のように増えています。
そんななかで全国的に”聴覚障害児の医療・教育環境の実態等に関する調査”を行わせていただきました。その中でデフサポでの知見や実例を踏まえて考察を書かせていただきます。

1、重複障害の児童について

難聴以外の重複障害を抱えている方も3割弱いる中で、今後サポート体制の強化なども検討する必要が生じています。
例えば、デフサポで相談を受けている中ではこんなケースがありました。

(1) 親や保育園の先生が “すこし普通の子とは違う” と感じる発達やことばの遅れのある子に対して主治医に相談しても「難聴の子はことばが遅れるものだから気長に待ちましょう」と取り合ってもらえず、就学前検診でようやく発達の遅れを指摘されたケース。

(2) 保育園の先生と言語聴覚士はなんらかの発達障害を疑い、詳細検査が必要と思ったが、医師は必要ないと診断したために詳細検査につながらず不安を覚えたケース。

このようなケースでは、本当にこのままで良いのかと不安になるなど、ご家庭にかかるストレスが大きく、きめ細やかなサポートが必要と感じます。

2、聴覚障害児を取り巻く環境について

本アンケートを鑑みても、人工内耳や補聴器の進化や脳科学の発展に伴って聴覚活用例が増えた結果、地域の幼稚園・保育園や小学校に通う難聴児が増えていることが明らかになっています。

デフサポを運営していると、働く母親が増えた現代では平日の日中の療育を中心とする旧来の療育システムでは対応しきれないことが多くなっていると感じます。

ろう学校の生徒が減り、他の特別支援学校と統合された結果、地方によっては片道数時間かかるような遠方にしかろう学校がなく、親の送迎問題が発生しています。働きながら送迎ができず、結果的に療育を諦めざるを得ず、デフサポを知って初めてことばの教育支援を受けたケースも生じています。

また、難聴に理解のない先生が担任となり、障がい特性に適した教育が受けられないリスクを孕んでいる問題に関しても、月に2、3件ほど相談を受けています。

加えて、地方によっては学年に児童が1人だけといったケースも増えており、仲間同士のピアエデュケーションが重要、と知っている保護者がろう学校や難聴学級に行かせたいが、行かせてもクラスメイトが1人もいないといった環境で過ごすことに葛藤を覚えるケースもあり、より親御さんの生活に寄り添ったサポートが求められるようになっています。

3、満足するかどうかは環境因子が大きい

今回のアンケートでは、満足・不満足を左右するのは環境因子であるとわかりました。

どんな医療関係者に出会うか、難聴についてどのような説明を受けるか、ともに子どもを育ててくれる人としてどんな保育者・教師に出会うか。住んでいる地域によって、あるいは住んでいる地域が同じでもどの施設に通うかによって満足度は異なります。

周産期医療から小児科、耳鼻咽喉科、福祉サービス、ろう学校、公的あるいは民間の療育機関、地域の保育園・幼稚園、そして学校まで。難聴児の子育てにはさまざまな専門家が手を取り合って、難聴児を育てるご家庭をシームレスに丸ごとサポートする体制が求められる時代となっています。

国全体としても「難聴児の早期支援に向けた保健・医療・ 福祉・教育の連携プロジェクト」が立ち上がり、その解消に向けて動き始めています。デフサポもその一助となれたらと心から願っています

デフサポでサポートできること

現在、デフゼミ(デフサポでの教材+定期カウンセリング)の利用者は100名ほど、カウンセリングを定期的に受けている親御さんは約300名ほどです。

デフサポやデフゼミでは、

難聴当事者や言語聴覚士などの難聴児の発達に詳しいメンバーが医師のサポートも受けて対応しています。

②新生児聴覚スクリーニング直後の不安な親御さんや、ことばの面や育てる上での心配事がある親御さんなど、どの親御さんもサポートしています。

③親御さんが手軽に使いやすい LINEやZoomを用いたり、休日や平日夜のオンラインカウンセリングをするなどして、今後の見通しを示しながら、難聴児子育てについての情報を日々、提供しています。

④補聴器や人工内耳装用後からのご家庭での声かけ方法など、「どの時期に何をしたらいいのか?」を相談しやすい雰囲気のなかで、詳しく伝え、サポートします。

どこに住んでいても。共働きであっても。どんな家庭でも。ろう学校が遠くて通えなくても。

デフゼミとカウンセリングは、親御さんが安心して子育てを楽しむための数ある選択肢のひとつになればと願って提供しています。
親御さんの安心を支えることが、お子さんのすこやかな育ち・華やかな未来につながると私たちは考えています。不安なこと・相談したいことがあったら、どんな小さなことでもお気軽にご連絡ください。

みなさまへのお礼

今回のアンケートでは 計49問の質問をし、人工内耳の装用年齢平均、聴力平均、どのような病院に通っているか、地域によるサポート体制の違いなど、難聴児子育てを取り巻くさまざまなデータを取得することができました。
この結果は、またまとめて発表したいと考えています。

貴重なデータは、ひとえに (自分の経験が他の悩める親御さんやわが子の明るい未来の役に立つことを願って) 親身にご協力くださった多くの親御さんのおかげで集めることができました。
子育てで時間の取りにくいなか、本当にありがとうございました
おかげさまでアンケートをひとつの形としてまとめることができました!

難聴児の子育てについて不安を抱える人が減るように、そして必要な情報・正しい情報にすぐにアクセスできる社会となるように、デフサポは今後もがんばりたいと思います。ひきつづき応援のほど、よろしくお願いいたします。

最後に、本データをまとめて学会で発表してくださった言語聴覚士の矢崎先生、そしてプロボノとして支援してくださっている戸田さん、SVPの皆様、さまざまな助言をくださったJINO株式会社の郷司さん。デフサポのスタッフ全員に、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

株式会社デフサポ 代表取締役 牧野友香子

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お問い合わせ

本アンケートについてのお問い合わせや、取材の依頼などはこちらよりご連絡をお願いいたします。

株式会社デフサポ
e-mail:info@nannchou.net

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